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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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「佐藤か?」

「あ。うん」

「今、電話いいか?」

「うん」

「メール見た。いいよ。どういう予定か知らんけど、俺で良かったら、その日付き合うわ」

「あ―――そりゃ良かった。けど、」

「けど? どうした?」

「電話。掛け直してまで返事してくるとは意外だった。仕事モードどしたの? 休憩時間?」

 佐藤は、素直に驚いていた。麻祈が、電話通話は急用・メールなどそれ以外の連絡手段は単なる野暮用と使い分けていることを知っており、かつ就業時間中は仕事しかしたがらないのを知っているからだ。

 だからこそ麻祈は、咄嗟にはぐらかした。裏声でおどけて、ついでにいつもの癖でオカマの手つきを口許に添えつつ。

「いやーねーェ、デェトに浮き足立ってるカレシに向かってなぁんてコトのたまってくれちゃうのかしらーあ、このカワイコちゃんはーあ。そんなこと言ってると、イタイ目みせちゃうぞー」

「うん。もう見てる」

「ふはははは。俺こそがイタかろう。その通りじゃわい。狙い通りじゃわーい」

「はいはい。分かった分かった。なら、また連絡するからね。んじゃね、アサキング」

 通話が切れた。

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(……そっか。俺、もう蜜穂さんより年上なのか)

 ふと、それを思い出した。

「長生きしたなぁ」

 呟く。

「親孝行したなぁ」

 ついでに、思いつく。

「ここまで長生きしといて、なぁんか今日も生き延びそうだなぁ」

 ということは、また今日も、動きまわったり腹が減ったり用を足したり、あれやこれやちょこまかとまめまめしく浮き沈みして苦しまなければならないのだ。多分。まず間違いなく、腹はこれから減るだろうし。昼だから。

「めんどくさいなぁ」

 本音である。

 本音であることに、また一段とうんざりだ。

「あーあ。死んじゃおっかなー。いや。やっぱ駄目か。死んだら」

 と。

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「 Nor I(おれもだ) . 」

 寝言で目が覚めた。

 目をしばたいて頬杖から顔を上げると、いつもの見慣れた医局である。よくある顔が、ありきたりの顔つきで、いつもながら働いている……あるいは、働かないでいる。それをみるに、まだ昼休憩かどうかといったところで、そう長くうたた寝していたようではないようだ。

(…………―――いつの夢だ? 今の)

 顔を撫でて妙なでこぼこが残っていないかひとしきり確かめつつ、麻祈は自分のデスクでひとりごちた。

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「おいおい大丈夫か? もう手遅れだったのに、爺ちゃん婆ちゃんに説き伏せられて手術して、やっぱり駄目だったけどそれでもってイタチごっこ続けて。それが悲惨過ぎるってんで、あの親父が、二度目の駆け落ちに踏み切ったんじゃないか。おかげであの人、未だにこの家の敷居を跨げないんだぞ。大和撫子を畳の上で死なせてもやれなかった馬の骨って、どんだけ爺ちゃん怒り狂ってたか」

「うーん。やたらハウスキーパーしか家の中にいないなーって思った時期はあった気がする」

「他人事だな。おい」

「がきんちょのオツムにゃ、あっちもこっちも大変だったって印象が強過ぎたんだろうさ。ハウスキーパーは初めて見る日本人の子どもを腫れ物に触る扱いだったし、圭一さんもやることだらけでノイローゼ気味だったし。いつの間にか、ゆゆは日本送りにされてるし。俺は俺で……まあ、ちゃんと勉強できるだけ、ありがたいなーと」

「なんじゃそりゃ」

 完全に引き腰になって、桜獅郎が嘆息する。

「そりゃま、勉強好きだからこそ医者なんかやりたいんだろうけど」

 その勘違いを、麻祈は正そうとも思えなかった。兄は兄らしい尺度の正しさに準じている。字の読み書きが出来ないからガス管と水道管を溶接しても気付かない、自らの人件費を安く買い叩かれたところで算数が出来ないから騙される、歴史を知らないから言われるまま殺し合う、あのぞっとしない連鎖を知らない兄は、日本国のシステムがいかに恵まれた貴重なものか分からないのだ。本当に豊かな国だと思う。

 麻祈は、目を閉じた。そのまま、栓のないことを駄弁る……

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「俺が知ってるお母さんは、文通相手として、だからなぁ」

「そうなのか?」

「ああ。親は、俺にとっては、爺ちゃん婆ちゃんだからさ。お母さんは、うちに里帰りしたらしたで、なんだか近寄りづらかったし」

「そうだったのか?」

「そうだよ。爺ちゃんも婆ちゃんも空気変わるし、お前はこっちに来た当初は赤ちゃん返りしてたし。はゆぅは……はゆぅだったし」

「まあ、最後のは疑いないところではあります」

 とても似通った目で虚空を見上げて、納得ずくの声音で同調する。

 それから麻祈は、あまり納得できない部分へと言及した。

「てか。え? 赤ちゃん返りしてました? わたし」

「『わたし』よりも『俺』」

「……こっちも全部I(アイ)ならいいのに……」

「してたと思うけどな。あれは多分。赤ちゃん返り。……覚えてないのか?」

「残念ながら」

「マジかよ。お母さんにあんなにベッタリだったくせして?」

「わた―――俺が、一番覚えてる母親のイメージは、痩せこけた病人像……かな。おそらく、あのインパクトに圧倒されて、他の思い出がノックアウトされちゃってるんじゃないか? 一緒に暮らした時もあったはずなのに、どんな会話したとか、ちっとも覚えてない」

「歌は?」

「うた?」

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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