「佐藤か?」
「あ。うん」
「今、電話いいか?」
「うん」
「メール見た。いいよ。どういう予定か知らんけど、俺で良かったら、その日付き合うわ」
「あ―――そりゃ良かった。けど、」
「けど? どうした?」
「電話。掛け直してまで返事してくるとは意外だった。仕事モードどしたの? 休憩時間?」
佐藤は、素直に驚いていた。麻祈が、電話通話は急用・メールなどそれ以外の連絡手段は単なる野暮用と使い分けていることを知っており、かつ就業時間中は仕事しかしたがらないのを知っているからだ。
だからこそ麻祈は、咄嗟にはぐらかした。裏声でおどけて、ついでにいつもの癖でオカマの手つきを口許に添えつつ。
「いやーねーェ、デェトに浮き足立ってるカレシに向かってなぁんてコトのたまってくれちゃうのかしらーあ、このカワイコちゃんはーあ。そんなこと言ってると、イタイ目みせちゃうぞー」
「うん。もう見てる」
「ふはははは。俺こそがイタかろう。その通りじゃわい。狙い通りじゃわーい」
「はいはい。分かった分かった。なら、また連絡するからね。んじゃね、アサキング」
通話が切れた。
麻祈は、携帯電話を持った手を膝の上に落した。
液晶画面に表示された通話時間は一分足らずだったが、それを言い聞かせてもなお、分秒に関わらず奇妙な感慨は膨らみ続けている。
呟く。ただし今度は、外に吐き出せないようなことを。
(……アサキング、か)
佐藤にとっての自分は、とりあえず確からしい。
その立ち位置が、ひとまずは居場所だ。
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