「そいつは悪うござんしたね。そっちこそ、英語書かせたらカクカクでしょうよ。ここまで漢字が読み書きできるようになっただけでも凄いと思ってほしいものだ。あのモノトーンイラスト、コツ掴むまでほんとややこしい。利益の『益』なんて、くしゃって笑って歯グキむいた顔じゃんよ」
「いや。その覚え方だと、かなり相当な益があったんですねってカンジが印象づいて、むしろ分かりやすいんじゃね? 漢字だけに」
「それに、ふたつ繋がると、真正直に読んじゃ駄目だしさ。蜜柑(みかん)ってなんでミツカンじゃないの? 茶道(さどう)ってなんでチャドウじゃないの?」
「さあ。疑問に思ったこともない。産まれる前からそうだっただけで」
「なんでナガタニさんとナガヤさんとハセさんは良くて、チョウヤさんとチョウタニさんは駄目なの!? どーせお前らみんな長い谷に住んでたんだろ! 先祖!」
「急にグーで卓袱台叩いてキレることか? それ」
「ロゥはいいよな生粋ジャップで。余裕で日本が暮らしやすくて!」
「あのなぁ。なら俺も生粋ジャップとして納得しがたいこと訊くけど。お前が前に言ってた、欧州ではメジャーなフライドポテトのハンバーガー。あの炭水化物の重ね食べの大人気は、百歩譲って、日本の焼きそばパンのそれと同じ系統だと見ていいか?」
「疑問に思ったこともないね。それだって、こちとら、産まれる前からの大人気だ」
「焼きそばパンは食いたいけど、フライドポテトのハンバーガーは売ってたところで買わないなぁ。不味そうだし」
「Chip Buttyは食感で食べなきゃ。味わうのは的外れだよ」
「おいおい。いくらなんでも。舌置いてきぼり?」
「だと思うね。前にあっちの友達にタコヤキあげたら、ディップどころかソースの海の小舟にされちゃったし。食べた感想も、クランチの楽しさ一点張り」
「ディップは分かるけど。くらんち?」
「ええと。この場合。アレだよ。噛みごたえ」
「伊達じゃねーなぁ。味オンチ大国」
「それでも、朝のトーストだけは嫌いになれないかな。あの空気に、あの香りに、軽くってさくっとした焼き立ての歯触り」
「決め手はやっぱ食感かよ」
だらだらと笑い合う。
ひと段落つくと、桜獅郎は口を開いた。
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