. 大人しく座布団に体育座りして愁眉を寄せる次男坊に、桜獅郎は兄らしい物分かりのよさを宿した眼差しをくれてきた。
「いつになったら性根が帰化するんだろうなぁ、お前は。口調もそうだけど、会話相手に調子を合わせ過ぎるその癖も、そろそろどうにか矯正できんものか……」
「これで得することも、無いわけじゃないけどね。意図的じゃなく似たニュアンスの鸚鵡返しが出来るってことだから、知らず知らず相手に好ましい態度になってて、あっちで勝手に好感度を高めてもらえてたり」
「あほか。そつなく八方美人をこなせるだけのことを、みだりに私生活で乱用するな。勘違いさせて振り回したら厄介だろうが。いっそのこと、ちょっとした丁寧語で貫徹しとけ」
「しといてみた結果、ホストだエロホストだと言われまくって厄介度が水増しされたあの頃……」
「ん? 遠い眼して、なんか言ったか?」
「いいえ。まったく」
ぶんぶか頭を振って、黒歴史ごと話の矛先を振り払う。桜獅郎は、特に追求してこようともしなかった。彼は弟が日本らしくないことについて寛容だ。気長なのか諦めているのか、それでいて見放さずにいてくれるので、自分としては気楽でいられる。
麻祈は、ぼんやりと呼びかけた。
「あのさあ」
「うん?」
「ロゥは覚えてる? お母さんのこと」
彼の沈黙に怪訝なものが混じる前に、断っておく。
「いや、あんまりにも蜜穂(みつほ)って言われるから。そんなに似てるかな?」
「どんなもんかなぁ。少なくとも、字は似てないな」
「字?」
「お前、ヘッタクソだから」
ぱちくりさせていた目を眇めて、麻祈は不貞腐れた。
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