「こー言っちゃなんだけど、それって副産物なだけでない? あいつはキングなだけで、キングらしく助けとかなきゃーって手を届かせた範囲に、紫乃がいたのは偶然だよ。きっと、紫乃が特別だから手を差し出したんじゃない」
「ないにしても。大丈夫」
「大丈夫って。おぬし」
「大丈夫。今度は、わたしから手を差し出すから」
葦呼が、説教を呑んだ。
その隙に、言い終えてしまうことにする。言う前からとっくに始まっていたことなのに、まるで見せつけるようにするなんて、気恥ずかしいことこの上ないのだが。
(野暮って、こういうことかな)
紫乃は、口を開き続けた。
「そうして、差し出し続けるよ。手を借りたいから近寄るんじゃなくて、ずっと手を繋いでいたいから、いつだって隣にいたい―――それを実現できるように、わたしも変わる。麻祈さんの手を借りないで、足を引っ張らないで、自力でついていけるように。いつか、手をとってもらえるように、頑張るよ」
「……そっか。なら、したらいいよ」
途端だった。葦呼の吐息が、はぜたのは。
くしゃみでもないし、咳でもない。その気配が含んだ感情は、温かかった。
「なに。急に笑うとか」
「いやあ。似たよーなことを違うふうに言って、こんな感じにポカーンとしたことあったなぁって、つい昔のこと思い出しちゃってね。分かった。そっか。紫乃も、大切なものを譲らないって決めたのか。そりゃ頑張れるわな。イエモト並みに無敵になれる」
「? 葦呼?」
「なら大丈夫だよ―――保障する。あたしはそいつを知っている」
と、葦呼が張り切って喝破する。
「協力するぞー。なにせ相手はあのアサキングだし。おっし、腕の見せ所。今こそ鳴るべし、ちからこぶー。ムキッ。あれ? 曲げたのに鳴らない。お前それでも上腕二頭筋かーくそー。紫乃。腹立ったから、もう腹を横にすることにする。寝る」
「あの。葦呼―――」
「じゃーね。ぐう」
とまあ、またしても一方的に張り切り終えると、携帯電話の通話まで切られてしまった。
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