「そだね。似た者同士だ」
怒鳴りつけられられたことに反発くらいしても良さそうなものだが、葦呼は声の調子すら跳ねさせなかった。
「だから、お似合いにゃならなかった。そう思う。あたしは、あいつに並んで歩けはするけれど、もう並んで歩かなくてもいいかってなったら、そのまま別れていくだろう。似た者同士に過ぎないからね。けれど紫乃。あんたは違う」
説き伏せるような声音に、心中も凪いでいく。
いつしか紫乃は、葦呼の言葉に聞き入っていた。
「ひとりでなんでも出来る奴が、ひとりでいなければならない理由など、ありはしない―――これは、あたしの恩師が口にした中で唯一、凡庸な言葉なんだけど」
前置きは、そこまでで済んだ。
言ってくる。
「あんたは、あいつに、好きなだけついていったらいいと思うんだ」
「うん」
紫乃は即答した。
予想していなかったはずもなかろうが、それでも疑うように、葦呼が疑問符を燻らせる。
「マジかい」
「うん」
「本当に、ついていくつもり?」
「うん」
「さんざん言った通りだけど、あいつキングだから、あいつじゃない誰かに付いて行くより、すげえ苦労するよ?」
「そうだね。でもきっと、不幸にはならないから」
「どういった打算?」
「っていうか、……足し算と引き算、かな」
「ほえ?」
「麻祈さんと出逢えて、わたし結構もう、いい思いをしてきた気がするからさ。これからどれだけ苦労したところで、わたしが覚えてる限り、いい思い出は無くならないでしょ。だからきっと、不幸までならないよ」
「いい思い、ったって……」
今度は、紫乃の落ち着きに、葦呼が動揺する番だった。どことなく口早に、せわしなく念押ししてくる。
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