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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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.さっき通読したので、絵本の内容も今後の展開も分かっている。見開きのページは冒頭。綿菓子で出来たさくら色の仔猫が、飼い主の女の子と喧嘩をしてドライヤーの強風を吹きつけられたせいで、乾いて軽くなり過ぎたために空まで飛んで行ってしまった場面だった。擬人化された仔猫の顔は、晴れ晴れと高揚している―――プチ冒険を満喫した最後には、飼い主に逢いたいと泣き出した汁気を吸って、女の子の掲げた両手の中に舞い降りるくせして。そんなことも知らない今このページでは。晴れやかに。

「ってか、こんなとこで。なにしてんの? あんた」

「だってわたしの部屋、もう読んだ漫画とか雑誌とかしかないんだもん」

 紫乃は、絵本を閉じた。むっとしていたせいで、乱暴な手つきになってしまったが、姉はそれを咎めるでもない。

 だからこそ、自分の行いに申し開きがあるとか、言い訳するとかでもないはずなのだが、それに似た苛立ちを引きずるまま、紫乃は姉へと声を尖らせた。腹這いの姿勢だって、直してやらない。

「夜のドラマも、まだ始まらないし。いーでしょ別に? おねえちゃん、どーせこれから夕飯でお風呂なんだから」

「まあ、そうなんだけどね」

 と、姉は、いつもどこか寝起きじみた険のある不機嫌そうな気配を、逡巡に染めた。やや前屈みになって下着の中の乳房の位置まで整え終えると、胸倉から引き抜いた手をぱたつかせて―――暑苦しい外から帰宅したばかりで予想外に汗ばんでいたらしい―――、ついでに自分で吐いた嘆息を払う。

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.姉の漱とは、年齢よりも、性格が輪をかけて違う。

 それは過去から幾重にも渡り痛感してきた事実だ。ワラジムシをダンゴムシに矯正しようとして延々と圧殺を繰り返す姉の指先に、恐れをなした幼少時代。「姉妹仲良くお人形遊びでも」とプレゼントされた金髪の女の子の人形が、関節という関節を組み替えられた末に新興宗教の偶像っぽいなにかへと変貌させられた挙句、仏壇に供えられていたことにトラウマを負った幼年時代。人気のない路地を歩いていたら、髪型の斬新さや出で立ちのけばけばしさからして絶対に関わったことが無いと断言できる人種の複数人にいつしか囲まれていて、差し出す財布なんて無いのにと硬直していたところ「スーギィの妹ちゃんじゃね? あ。漱ね。スーギィって」とニコヤカに話しかけられた学生時代―――

 沸騰した心拍が、凍った血液を叩き割るような錯覚。あの感覚は、今は無い……無いことで逆に、不信感を懐柔されているような猜疑心が湧き起こる。紫乃は半眼で、姉に呻いた。

「なんで桃色わたがしにゃんこポイミーの絵本と刺青の写真集と通販カタログ雑誌(家具)が、本棚に一列で並んでるの?」

 姉は、目をぱちくりさせた。

 そしてその向きを、すぐに着替え中の自分の手元に切り替える。姉の部屋の姉のベットでぐうたらと腹這いになったまま本棚を指差す妹よりも、仕事着から部屋着へと楽になる方が、優先順位は高いようだ……あるいは、着替えの先にある、夕食や入浴などといったものの方が。それらさえも済ませてだらだらする紫乃など、アウトオブ眼中でも仕方が無いところだ。

 それでも、愛想は残されていたらしい。ちゃきちゃきと衣服のあれこれを脱着しつつ、言ってくる。

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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