.姉の漱とは、年齢よりも、性格が輪をかけて違う。
それは過去から幾重にも渡り痛感してきた事実だ。ワラジムシをダンゴムシに矯正しようとして延々と圧殺を繰り返す姉の指先に、恐れをなした幼少時代。「姉妹仲良くお人形遊びでも」とプレゼントされた金髪の女の子の人形が、関節という関節を組み替えられた末に新興宗教の偶像っぽいなにかへと変貌させられた挙句、仏壇に供えられていたことにトラウマを負った幼年時代。人気のない路地を歩いていたら、髪型の斬新さや出で立ちのけばけばしさからして絶対に関わったことが無いと断言できる人種の複数人にいつしか囲まれていて、差し出す財布なんて無いのにと硬直していたところ「スーギィの妹ちゃんじゃね? あ。漱ね。スーギィって」とニコヤカに話しかけられた学生時代―――
沸騰した心拍が、凍った血液を叩き割るような錯覚。あの感覚は、今は無い……無いことで逆に、不信感を懐柔されているような猜疑心が湧き起こる。紫乃は半眼で、姉に呻いた。
「なんで桃色わたがしにゃんこポイミーの絵本と刺青の写真集と通販カタログ雑誌(家具)が、本棚に一列で並んでるの?」
姉は、目をぱちくりさせた。
そしてその向きを、すぐに着替え中の自分の手元に切り替える。姉の部屋の姉のベットでぐうたらと腹這いになったまま本棚を指差す妹よりも、仕事着から部屋着へと楽になる方が、優先順位は高いようだ……あるいは、着替えの先にある、夕食や入浴などといったものの方が。それらさえも済ませてだらだらする紫乃など、アウトオブ眼中でも仕方が無いところだ。
それでも、愛想は残されていたらしい。ちゃきちゃきと衣服のあれこれを脱着しつつ、言ってくる。
「いや。単なる閲覧順」
「単なる閲覧にしては、謎めいた履歴な気がするけど……」
「そう? 『間違いない―――これは彼女のダイイングメッセージだ!』って喜び勇んだ名探偵とか出てくる?」
「死にゆく者の伝言(ダイイングメッセージ)だったら、もれなく履歴主のお姉ちゃんが死なないとならないんだけど……」
「馬鹿いってんじゃないの。もれありなさいよ。あたしに限ってでいいから」
「前代未聞の高飛車な譲歩だね」
紫乃は、見るでもなく、うつ伏せになったまま顎の下に広げていた絵本を見やった。刺青の写真集と通販カタログ雑誌(家具)も本棚から拝借していたので、そちらを読み進めてもいいのだが、進まなくてもいいのだから、なんとなくそうした。
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