(とにかく。ひとまず。坂田さんは、なんて言ってた? とっても嬉しかった? てことは、感謝しているのか? 俺に? 坂田さんが? 今この時に? 今もってしても。だとしたら、)
滑稽だ。
騒動を牽引したのは小杉かもしれないが、扇動したのは紛れもなく麻祈であり、坂田はなし崩しに巻き込まれてここまで来たに過ぎない。彼女の鬱状態に介入しはしたが、それは麻祈が己の懸念を払拭したいがために行った行動で、結果的に彼女が回復したのは幸運な副産物だ。それはそれだし、これはこれだろう。どうだ? ほかに考える余地があるか?
(どうでもいいだろ。それでいいだろ。めんどくさ)
麻祈は、投げ槍に許しを乞うた。うんざりと。
(いいからさっさと俺を怨めよ。悪者がいたら都合いいだろ。小杉さんだってそうしたんだから、あんたもそれに続けばいいんだよ。佐藤にまで面倒かけたんだから、もう幕切れにさせてくれよ―――)
「わ、たしじゃ、駄目ですか!?」
との呼びかけに、愚痴も折られた。わたしでは駄目ですか?
(なにが?)
麻祈への見当違いの感謝が、坂田では不適格だという合否に変転している。黙りこくっていた数秒で何があった? 何を聞き落した?
だがしかし、こちらの理解の浸透を待たない、にっちもさっちも行かない詰問は、矢継ぎ早に連綿と射られてくる……
「どうして駄目ですか!? 頑張ります! 頑張りますから、わたし! 駄目じゃなくなることが出来るように、いつか、ちゃんとなりますから!」
坂田は切迫した顔つきで、暗がりの中でも判別できるほど涙ぐんでいた。肩も肘も張っていた。指先も突っ張って、白っぽい黄色の爪を鼠蹊部のあたりに押し付けていた。だとするならばきっと、心まで張りつめているのだろう。
そう。張りつめているのだとこちらに見せつけておきながら、その原因はおろか、そこに至るまでの道程すら語らない。その上、それを問わせない。問いは坂田から続く。それはもう、ひっきりなしに続く。答えを欲するまま弾ける。自覚なく問題文を隠しながら、設問者は正答を出せと言い続ける―――
その時だった。
[0回]
PR