.一応は、庇っているのかカバーしているのかしているつもりらしい。がっと佐藤を仰いだ麻祈を、両手を腰に見下ろしてくる佐藤の双眸は、睥睨を語らない。常々通り、飄々と友好の念を燈しつつ、軽々とため息をつく。我儘な、という言葉は心の底から真実らしい。そこにだけ呆れている。とことん本当に。
それに比べて、どぎまぎして身体まで床に落ちぶれている自分ときたら、てんで話にならない。麻祈こそ、ため息が出た。こちらも、彼女と異なり、重々しく。更には、忌々しく。
せめて、立ち上がる。
のろのろとそうする間、麻祈は坂田の動向を窺っていた。彼女は一向に凝立したままで、両腿の前のスカートを片手ずつ握り締めて固まっている。小杉の第二波が来ることを願うが、どうやら望み薄らしい。そもそも坂田は、佐藤の古馴染みである……高校の終わりから、と言う交流年月について具体的に調べてもいなかったから察しもつかないが、麻祈のそれより長いとみて疑いない。友人が既婚者でないことを知っていて当然だろうし、おそらくは麻祈以上に佐藤の突飛な破天荒さに耐性がついている。となると今のこれが、噴飯ものの猿回しであることも見抜かれているはずだ。ただでさえ、女性であるというだけで直観の正答率は著しく―――イカサマなくらい―――跳ね上がることだし。
腹を括(くく)って、麻祈は坂田へと向き直った。
「坂田さん」
呼びかけられる覚悟はしていたのだろうが、それでも坂田はびくりと肢体を痙攣させた。
麻祈はそれを軽視できる立場ではない……だとしても、直視しつつけることが出来るほど強靭でもない。目を伏せ、視認を坂田から逃がす。辞儀をして、己の逃げ腰を許す。陳謝で、己の口癖を轢き潰す―――
「今回は、本当にご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」
もう、言葉は続かなかった。
釈明することなど無い。そして今はそれ以上に、うまい日本語を探し当てる自信がなかった……疲弊した脳が、少しでも楽をしたがって、英語圏に引っ繰り返りたがっている。その前兆を、こめかみの深いところから感じていた。
折り曲げていた上体を正す。
佐藤は、麻祈を見て、黙りこくっていた。麻祈から顔を俯かせた坂田は、そうではなかった。
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