「最初にデートしてくれた時から分かってました。だから、先に分かっちゃったから。せんせーから気持ちを言ってくれるの待ってたんですけど、この人があたしと違ってメソメソした手でせんせーの優しさにつけ込もうってしてるって聞いたから……それで……我慢できなくって、―――」
尻すぼみに散って消えゆく小杉の声色は、悲しんでいた。嘘っぱちかもしれない。嘘かどうかは分からない。
見れば、坂田も椅子から立ちあがっていた。そうして、その場に立ち尽くしていた。なにも言わない。ただ、物言いたげな顔だとは言えたかもしれない。物欲しそうな顔かも分からない。
分からないのだ。今までそうであったように、これからも麻祈は生粋ジャップではない。
だが、分からずともよい。それらのどれとも、今からの“これ”とは関係が無い。
麻祈は、口火を切った。その寸前に腰を折り、頭を下げた。
「申し訳ありません」
そのまま、謝罪を繰り返す。
「俺が招いてしまった今現在の事態について、誠に申し訳なく思っています」
上体を起こすと、坂田と小杉が絶句していた。ただし、その種類は、それぞれ違う。坂田はただただ成り行きについていけず呆けているが、小杉は期待に胸の内を席巻されて身動きが取れないといった体(てい)だ―――猫を思わせる大きな目が、猫科の肉食獣を連想させる眼光を帯びる。麻祈の横にいる佐藤が、冷静にそれらの観察を続けていた。麻祈もろとも、場の全体を。
それを見て、引き返す気は失せた。意を決す。
「この際です。皆さんとの関係を、俺の口から、はっきりさせても宜しいでしょうか?」
「はい! お願い!」
小杉の発破の音程が、過去と同じく、かん高い。
麻祈は手を伸ばした。再び、佐藤へと。が、手をかけたのは、彼女の頭頂でなく顎下だ。角度と方向を最適位置に固定して、その唇に噛み付く。
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