. 紫乃の知覚が、見て、感じて、触れた麻祈は、どこまでも麻祈だった。丁寧で優秀で楚々として、いつだって温和な闊達さを絶やさない。ユーモアは、時にブラックが効かされていても香辛料程度で、毒はない。感情の起伏から伝わってくるのは、温もりのある溌剌さばかり。誰への害意も宿らない。そうして、等しく、麻祈で在り続ける。それは―――
“彼”が、“麻祈”として全民に阿(おもね)っている姿だった。
(どうして?)
ひたすらに周囲の空気を読む特訓を積んだ紫乃だから、“彼”に気付いた。
麻祈は、紫乃以上に鋭敏に、見られている自分を演じている。紫乃以上に有能な彼だから、完璧に近い形で、求められる“麻祈”をやり遂げている。それは群衆に溶け込むことで群衆を防御壁とする紫乃以上にまわりを警戒し、群衆の中にいるからこそ鎧兜を脱がずにいる無頼の姿だった。
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