夜の駅前でバスから降車し、紫乃は周囲を見回した。
それは、怪しい商売人などに囲まれる気配がしたからではない……単純に、指定された店までの地図と現実の風景との整合をはかっていた。首都やその近郊では前者を警戒する必要性が高いのかもしれないが、こんな地方都市では、方向音痴が我知らず見当違いの区画を彷徨った挙句に迷子となる危険性の方が高い。歓送迎が込み合う時期でもないので、道を尋ねようにも通行人さえいないかもしれないのだ。
(うー。携帯電話に地図あるけど。こんな奥まったとこ、ひとりで行けるかなぁ)
手の中の小型の液晶画面には、外国語―――の店名だ、それは分かる、まぁそれを公用している国名は定かでないにしても、それでもだ―――と、現地点からそこに至る順路が示されている。ただしその道筋は、中世の怪盗が金庫の鍵穴に突っ込んでかちゃかちゃやるピンを思わせるカクカク具合ときていた。見るだに難問である。さらに夜間とあっては視界も利かないし、その上ひとりきりである。
(まあ、どれもしょうがないんだけどさ)
紫乃は苦汁を飲んだ。携帯電話を頼りに、大通りから外れる細い裏道を、おっかなびっくり進んでいく。
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