ふと、暗くなった携帯電話の画面に映り込んだ自分と、目が合う。
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笑ってしまう。毎朝の出勤の時より丁寧に身支度した坂田紫乃は、ひどく馬鹿みたいな存在だと思えた……作り上げたところで、こんな程度の自分なのに。二十代半ばを過ぎてまで可愛らしく見せようとするのを諦めることができなかった代償が、この部屋の惨状だ―――ベッドには鞄どころか、合わせてみて気に入らなかった服や貴金属が放り出されたまま。化粧台は取り出してからしまっていない口紅やら何やかやが林立して、斬新な未来都市のよう。もう時間がないので、帰宅してから、これらを片付けなければならない。
(―――とにかく。もう行かなくっちゃ)
無様なのは、いつものことだ。だからいつでもそれを自嘲できるのを知っている。
紫乃は部屋を出た。駅前に向かうバスが近所の停留所に来る時間は結構先だったけれど、履き慣れない高さの踵の靴で覚束無くなる己の足取りだって知り尽くしている以上は、いくらでも備えておくに越したことはない。
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