三十分でシャワー。
三十分で化粧。
三十分で、昨日から選んでおいた服に着替え、身だしなみを整える。
三十分で……
(どれも三十分もかかるはず無いって、知ってるのになぁ)
時報のように予定を刻むのも虚しくなって、彼女―――紫乃(しの)は吐息した。それは、目の前の姿見鏡に映り込んだ自分の顔に一瞬だけモザイクをかけて消えたが、鬱蒼とした気分だけはむしろどこかから吹き込まれたかのように胸奥で濃度を増した気がする。
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今度は軽く腕を広げて、鏡越しでなく、直に己を見回した。腕。背中。胸元。よそ行きのおしゃれ着に、ほこりもほつれも見つからないことをチェックして―――そしてそれが、いつも以上に散らかった自室での独り舞台でしかないことにまで気づいて、肩もろとも視線を落とす。その先、鏡の中で、特別自慢できる細さも長さも無い自分の足と出くわしてしまって、更なる陰鬱がこみ上げる。
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