ちょうど酒も飲み干した。本を閉じ、身体を起こす。そのまま麻祈は、ベッドの上であぐらをかいた。サイドボードにある財布のわきにコーヒーカップと携帯電話を置くついで、自分の手首にある時の羅針盤を、再度見やる―――そろそろ身支度を整え始めてもいい頃合いだった。のだが、せめて口に含んだ氷のかけらがなくなるくらいまでは、それをしたくない気分だった。氷片を無くした口蓋に、なお一層の生ぬるさを感じることになると分かっていたとしても。
案の定、氷はすぐに溶けて消えた。
「……めんどくさ……」
.
顔を撫でて、ひとりごちる。昼にいったん剃刀を当てたせいで、指に髭の感触はしなかった―――少なくとも、剃りなおそうと心に決めるほどには。だとしたらまだ、肺臓から漏れ出た口癖について考察したりしていても許されるのではないか? 面倒臭いのは生ぬるいからか? 生ぬるいより生臭いからか?
(あーめんどくさ)
それを終止符に、麻祈は床に立った。そろそろ現実を始めなければならない。
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