(行きたくないなぁ。合コンなんて。今日は、直接な知り合いもいないみたいだし)
それでも律儀にネックレスの位置を整えずにいられない己の指を恨めしく思いながら、紫乃はゆっくり目をしばたいた。いつもより丹念にマスカラを塗ったせいで、じくじくとした違和感が苛んできてやまない……まあそれは、こんな時間に化粧なんてし直したせいだろうけれど。―――こんな時間。
(いつもだったら、お風呂も終って、お母さんと話しながら夕ご飯食べてる頃だなぁ。お姉ちゃんも、そろそろ帰ってくるかも)
紫乃は、すぐそこのベッドの上にある鞄から、タッチパネル式の携帯電話を取り上げた。液晶画面に示された時間を見て、ちらと壁向こうにある姉の部屋の気配を探り―――途端、手元のそれが穏やかなグラデーションとメロディを発して、音声着信を告げてきた。そこにある名前は、佐藤葦呼(さとういこ)。旧友と言うよりか、旧知の友だ。とんちじみた言い方だが。
通話をオンにして、耳に押し当てる。
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「もしもし。紫乃? もう出た?」
「今うち出るとこ。どうしたの? なにかあった?」
「今日は、ほんとヨロシク」
慣れないイヤリングが携帯電話に激突して不愉快な音を立てたので、咄嗟に隙間を確保したのだが、友人の声は自分こそその事故の当事者であるかのようにすまなそうだった。
そのちぐはぐさに、笑いがこみ上げる。紫乃は、くすりと小さな笑いに弾けた呼気に紛れ込ませるように返事をした。
「なんで葦呼がヨロシクするのよ? 発端は華蘭(からん)でしょ?」
「だってさー。見知らぬ合戦場にマブダチを投入するんだし」
「合コンの人数合わせに呼ばれたただけで大袈裟なー」
「んまいご飯だけ食べて帰ってきて。代金出してくれる面子だから」
「え。面子って。葦呼、誰が来るか知ってるの?」
「あれ?」
きょとんとした声音にありありと勘違いを語らせながら、葦呼が続けていく。
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