電話口で、抑揚も色気もない女声が流れていく。
「ごめんアサキング。今なにしてた?」
「気合入れてムダ毛抜いて勝負パンツに履き替えてた」
「ほんとなら嬉しいけど、確実に嘘だから嬉しくない」
「当たり前だろ。なに言ってんだ?」
「ほんとのこと言ってる」
.
「じゃあ俺も本当に今なにしてるか白状すると、ベッドに腹ばいで二杯目の焼酎のロックを舐めながら愛読書を開いてる。今のページは、ふざけて口に銜えたウルトラ花火が暴発して下顎から上がキレイさっぱり吹き飛んだ少年の寝顔写真。顔ないけど」
「悪ふざけはTPOを選ぶべきだね」
「それは俺に対してのコメント? それとも少年? もしかして佐藤本人?」
「一番は少年」
「オーケイ。俺が二番かもって肝に銘じとく。びくびく」
せりふと裏腹に平然とページをめくりながら―――大口径銃による狙撃死体というのは内臓が脱皮して残された抜け殻のようだ―――麻祈はマットレスにうつぶせたまま、右手に提げているコーヒーカップのふちを舐めた。氷に直接口づけずとも、揮発していくアルコールは、口腔粘膜に十二分に冷たい。そして熱い。中へと注いだ透明な液体は、既にセンチ単位を切っていた。
[1回]
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