「はい。こちらCIAの特殊捜査班。どこが特殊かって? 決まってるだろ。こうやって電話口で正体をバラしてることさ。バラしてどうする。捜査班として特殊すぎるわ」
「まったくだ」
実を言えば、CIA云々にまつわる切り返しは冗長となることを期待していたのだが。
それを裏切られた落胆よりも、そう切り返すだけの余裕を会話相手から失わせた激務具合にこそ、彼―――麻祈は、ため息をついた。
.
ひとり暮らしのために、この部屋を賃貸し出して早数年。それは、窓辺から差す陽光の角度を日時計代わりにできるくらいには住み慣れてしまえる、充分な歳月だ―――その上、夕日が差し込む窓でなく室内の蛍光灯を頼りに本を読み進めるようになってからの体感時間が、現実を裏付けている。腕時計を確かめてみるものの、己の見当違いという慈悲は表示されていなかった。今から病院が混みあっているとなると、今夜の当直医は仮眠も取れないかもしれない。なにより麻祈にとっては、それが明日は我が身かもしれないという意味で、なかなかにぞっとしないことではある。会話相手の女医は同僚だ。
[0回]
PR