. 小脇にした冊子に体温が移る頃、麻祈は約束の居酒屋へ到着した。いつも使っている禁煙席を予約したのは自分なので、待ち合わせ相手がどこにいるかも分かっている。ならばそこへ直行してよかったのだが―――店内にこもった人いきれに、外気以上の吐き気をもよおして、麻祈は思わず店の入り口で立ち止まった。そして梅雨のことまで連想し、こうして思い出してしまった。
(ああ。嫌だ嫌だ。めんどうくさい)
梅雨時は虫が湧く。のみならず、梅雨が終われば夏が来る……長袖でいるのが、最も辛い時期がやって来る。院内は、患者を慮った―――という名目兼、電気料金に優しい温度設定のクーラーが動いてはいるのだが、開放的なガラス張りが陽光熱まで受け入れるとあっては、まさしく焼け石に水だ。湿度の少ないところで生まれ育った麻祈には、日本本土・山陰地方の夏季はきつい。
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