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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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. そこで、ずっと手にしていたコップの中身を、一気にあおる。氷を浮かべた麦焼酎は冷えていたが、胃袋にぶちまけたところで生きた肉は一時も冷えない。むしろ内臓どころか血の一滴さえ残らず熱を上げたように感じる。八つ当たりにコップをテーブルに叩きつけるが、プラスチックのそれは切ないほど安っぽかった。ぽこ、と間抜けな音を立てて、氷の粒がちょっぴりジャンプする。だけ。

 とりあえず抄録集だけは水滴から保護すべく、それを隣の椅子へ完全に手放してから、麻祈はまくし立てた。つっかえてしまった麻祈を気遣って英語を口にしてくれた佐藤を思えば、こちらこそ可能な限り日本語で。

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「とりあえず、ひと通り話させてもらうと。こないだの合コンのあとから、あんたシノとも電話で話すようになってるでしょ」

「しの?」

「坂田紫乃」

「ああ。坂田さん。そうだな。言われてみると。それなりに」

 小杉ついでに、麻祈は坂田について、キャラクターを反芻した。はぐれ日本人旅行者。やや内向きで自罰的な傾向は見受けられるが、芯はしっかりとしていて論拠に基づいた意見も持っているようだ。それを知った今となっては、ハニワっぽいとの例えは不適当だろう―――ハニワは中身ががらんどうなのだし……

「んで、例の派手カラフルな人が、この泥棒猫がって紫乃に食って掛かってる。恐らくは、そんな今この時」

「それこそどうしてそうなる!?」

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. 止まったものは仕方ない。仕方ないから動けない。頭も働かないし、舌の根から酒のまろみが消し飛んだのだってどうしようもない。い・ろ・は、1(アン)・2(デュー)・3(トロァ)、A(アー)・B(ベー)・C(ツェー)、サイン・コサイン・ブイサイン……そうやって、口元のコップを支える掌の付け根にある腕時計の秒針が軽やかに刻み上げていくリズムを、ただただ無音のまま歌う。歌えてんじゃん。俺。

 現実逃避に指弾をくれてきた理知へと土下座する心地で、麻祈はテーブルに上体からばったりと頽(くずお)れた。自分もろとも机上に伏せさせてしまった抄録集の表紙を、力無く引っかく。音さえ立たない。その代わりでもないが、口から声が漏れた。地べたを這うような、腐った咆哮が。

「…………めんどくさ…………」

「もうちょっと内面寄りも含めて表現すると?」

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「今回のオタク会は急止。それを楽しみにとっとかないと、やってられない事件が表沙汰になった」

「事件?」

「こないだの合コンのあと、あんたに頻繁にメール連絡してくる女の人いるよね?」

「いるよ」

 質問の意図が不明だが、麻祈は答えた。小杉とのやり取りは、悪事でも秘め事でもないのだから。

 重ねて、佐藤が訊いてくる。

「どんな人?」

「どんな人って。美女だ。生粋ジャップが言うところの」

「もうちょっと内面寄りも含めて表現すると?」

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「じゃーん(Flexin'!)。コレだよーん。こないだの数学学会の抄録集」

「うん」

「有給使ってアメリカ行った甲斐あったよ。送った絵葉書、ちゃんとお前ン家届いてるよな? そこにもちょっと書いたけど、あの教授ならいつか本当にリーマン予想(RH)を証明してくれるんじゃないかって思えてきてさー。マジ盛り上がる(I'm too hype!)―――」

「うーん」

 佐藤の顔が晴れない。

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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