. そこで、ずっと手にしていたコップの中身を、一気にあおる。氷を浮かべた麦焼酎は冷えていたが、胃袋にぶちまけたところで生きた肉は一時も冷えない。むしろ内臓どころか血の一滴さえ残らず熱を上げたように感じる。八つ当たりにコップをテーブルに叩きつけるが、プラスチックのそれは切ないほど安っぽかった。ぽこ、と間抜けな音を立てて、氷の粒がちょっぴりジャンプする。だけ。
とりあえず抄録集だけは水滴から保護すべく、それを隣の椅子へ完全に手放してから、麻祈はまくし立てた。つっかえてしまった麻祈を気遣って英語を口にしてくれた佐藤を思えば、こちらこそ可能な限り日本語で。
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「他はどうあれ(I, for one,)! 派手カラフルな人には、来た連絡に返信してただけ! 坂田さんは米焼酎の礼に電話してみたら案の定に鬱っぽかったから、そのままにしておけなかっただけ! どちらもそれ以外の他意が無いからこそ、今まで続いてただけ! 誓って言う(Word is bond!)!」
「好きなこと言うから好きにさせておいたってか」
「当たり前だろ。他にすることあんのか?」
「漁夫の利とばかり二股かけた疑惑を華蘭は推してたけど。けっ。どーせアサキングのことだから、そんなこったろうと思った。確実にやるならポテンシャル的にも尻尾つかまれるヘマしなかろーし。にしても。あー。っぽいわー。マジ キングっぽい(It's you to a T.)」」
そこで佐藤は、席の背にそって背伸びするように、ぐっと背後へと凭れかかった。そこにリクライニング機能など備わっているはずも無いのだが、そうやってえらく無理矢理にでも寛ぐ構図を整えてから、そうする余裕すら欠いた下賎の徒へと、迂遠な睥睨を寄越してくる。
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