. 佐藤は自分にも責任があるようなことを言っていたが、とんでもない話だ。どのようにこじつけたところで、彼女の罪状は麻祈と坂田を合同コンパの人身御供にした程度に過ぎない。そこから生じさせていた僅かな誤差を、スキューズ数を上回る差異まで拗(こじ)れさせたのは、自分の優柔すぎた応対と、それに頼らざるを得なかった坂田の不遇と、それらを愛憎劇仕立てに解釈した小杉の了見の狭さ及び偏向―――まあこれもテリブルな境遇かという気はするがそれはそれとして―――だ。佐藤自身が、それを分かっていないはずもない。なのに、累がある自分にも不始末の労役を課せと譲らない。こうやって麻祈から鬱憤晴らしに怒号を浴びせられても怒号で返し、尚且つ、それでも見放さない。恐らく、さっき衝動に駆られるまま実際にこの舌鋒で狼藉を働いたとて、彼女はこの件そのものから手を引くことはなかったろう。それは何故か?
(この世話焼き)
まさか、麻祈のそれが空耳として聞こえたはずもないだろうが。苛々に鬱屈しきった仏頂面で、佐藤が吐き捨ててくる。
「……当事者の義理として、なんか言ったら? あんた」
「エレガント」
楯突いて、ついでに自虐して、おまけに卑屈も忘れないでおこう。やけくそで、麻祈は陰気に片頬だけで笑んだ。
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「冗談としての出来は、とってもエレファント」
「そりゃそうだ。冗談にもならない事態だもん」
「シュルレアリスムにもなりゃしねえなあははハ」
「だろうねぇ超(シュール)がつけ入る余地ない現実(リアル)だもんねぇアはははハア」
ふたりの胡乱な高笑いが、感染しあって、から回る。
であればおそらく、佐藤も麻祈と同じ光景を思い出しているのだろう。エレガント・エレファント―――美しく洗練されている・不恰好で見苦しい―――、数学の証明の最後に、黒板に評価としてどちらかが穿たれる、あの瞬間はあんなにも掛け替えないコンマ一秒なのに。こうなってしまうと、なんだかとてつもなくそれを愚弄した気分になってしまう。軽挙妄動に唆されるまま、我欲に基づいてやってしまった無粋な皮肉であるだけに。
ぽつり、懺悔するしかない。木魚の連打後にチーンという叩き鐘の音でオチがつきそうな、虚なる静寂へと。
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