. 気乗りしない議題を討議するのは無論のこと気乗りしないにせよ、そのことそのものは、やり慣れている作業ではある。麻祈と佐藤は、とかく早急に小杉と坂田を交えて話し合うべきだという点で一致していた。ただし、事の主犯格なのだから自分も最初からその場に参加すべきとする麻祈の主張に対して、佐藤は論駁(ろんぱく)を崩さなかった……少なくとも小杉の麻祈への好意は火を見るより明らかなのだから、その張本人を目の前に、彼女が赤裸々なトークするとは思えない。麻祈が加わるのは、せめて彼女が包み隠さず語りつくしたあとの方が望ましい。
「だからまずあんたは喫茶店で、あたしと背中合わせの席に隠れてスタンバって、聞き耳を立ててりゃいいと思う。んで、機を見て、こっちに登場すると。中身見えてきた(Get the picture?)?」
「Wow(わぁお。)! 真打ちっぽーい。緊張しまくってガタブルだぜ(I have a butterfly in my stomach!)! キメ顔こんなカンジ?」
適当な角度に顔をずらして前髪を払ってみせるのだが、笑い出すべき佐藤はノータッチを決め込んだ。あろうことか、二皿目の厚焼き玉子をもふもふと頬張りながら、
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「なんだったら合図するから。それから出てきて。なにが分かりやすい? 打ち上げ花火?」
「合図以上に違法性が分かりやす過ぎます」
おどけるのを諦めて、げんなりと無愛想を露出させた麻祈に、彼女が食い下がる。
「じゃー合言葉? 風」
「谷」
「およ? 通じるとは」
「たりめーだ。お前、キホンのイロハだろ(It's ABC.)」
「いや、あたしサトウのイコだから(But I'm DEF.)。 って定番オヤジギャグ置いといて。アサキング、アニメ見んの?」
「佐藤こそ」
「そりゃ見るよ。ジャパニメーションは自動車に次ぐ輸出品目だもん。クール・ジャパンかどうか、ちゃんと品質チェックしとかないと、海外から買ってくれてる人たちに顔向け出来ないじゃん。あんたこそどーなの? あんた、蛇の道の蛇なわけ(Are you game with that?)?」
「いんや(Nope.)。俺は、日本人のペラい顔で派手なアクションされても、似合わなすぎて見てられないってだけ。最近の日本の実写作品には、演技を見たいって役者も全然いないし。っつうか、最近じゃ役者じゃなくてアイドルが銀幕で幅を利かせてるし」
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