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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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「あなたは疲れてるんじゃなく、傷ついている。俺にはそう感じます。であれば、それは愚痴ではありません。だったら、俺に聞かせてくださいませんか?」

 手から、意識して力を抜いたのに、震えは一向に治まらない。

「坂田さん? 坂田さん。どうしました? どうか、したんですか? 坂田さん」

 脱力した手の戦慄(わなな)きが増していく。

 どころか、唇も震えてきた。前歯で噛む。喉まで震えた。飲み込む。生唾の一滴も嚥下していないのに、こみあげてくるものを感じていた。胃袋よりも下にひそんだ、底知れぬ胸の奥から……さらには、眼窩から。

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「謙遜なさっておいでなのは、坂田さんの方でしょう。働いた度合いからしてみると、俺からお礼の品でも贈るべきかもって思うくらい、面映ゆいことをなさったんですから」

 純粋な賛嘆。

 彼が、そんなことを紫乃にしてはならない。

 紫乃は呟いていた。

「そんなことないんです」

「坂田さん?」

「わたしなんか、……―――わたしなんか、ほんとに迷惑なだけなんです。こんな程度で、みじめで、なにも出来なくて、どうしようもなくて……」

 声音に涙が混ざり出す。

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「もしもし。こんばんは。坂田さん」

「あ、さきさん?」

「ええ。麻祈です」

 そう答えてくる、彼。まるで普通に、通りすがりに顔見知りを見かけたかのように。

 とりあえず、紫乃もそのような声を心がけて、挨拶した。いつもの癖で、声と同時に頭を下げながら。開いていた片手がなんとも居心地悪くて、もじもじと太腿の間に挟みこむ。

「こんばんは……」

「こんばんは。そして、お久しぶりです。こんなお時間ですが、今こうしてお電話しても、ご都合よろしかったでしょうか?」

「は、い」

 きびきびとイントネーション正しく流暢に話す彼に対して、自分の口ぶりは、あまりにのろい。

(ごめんなさい)

 紫乃は腰掛けたベッドの上で恐縮した。

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. その日も紫乃は、帰宅してから食事をした。食べ終えたので歯を磨いた。磨き終えたから風呂に入った。それから上がれば顔がかぴかぴするから、自室にて化粧水と乳液で保湿した。保湿し終わっても寝るまでまだ早いから、テレビを見に居間に行くんだと、それを疑いもしていなかった、その時―――

 ベッドに置いていた携帯電話が音声着信を歌い出して、目が覚めた。

(え? 寝てないよ? わたし)

 そんなの、当たり前の筈なのだが。

 それでも紫乃は、きょとんとして立ち上がった。座る場所を、化粧台の椅子からベッドの端っこへと移して、そこに放り出していた携帯電話を手に取る。

 表示されていた名を目にして、息が詰まった。

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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