「とにかく。なにかを変えるためには、誰かが始めなければ。彼女に接するのはまだ荷が重いことだと承知していますが、それでもどうか、お願いします」
「分かりました。ちょっと社長に相談してみたいと思います。ことの発端は、社長からの電話でしたから」
「ええ。是非そうして戴けると、ありがたいです」
そこで、会話が途絶える。
そこに漂った沈黙の種類が、これから埋めるための虚無ではなく、埋める理由を失くすまで達した飽和であることを察する。頃合いだと認めざるを得ず、紫乃は電話口向こうの麻祈へとお礼をした。
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