. それは辛かったですね。言われて、悟る。
(わたし、こんなに辛かったんだ)
とても悲しかったですね。そう言われて、頷く。
(わたし、こんなにも悲しかったんだ)
やれたこと。出来たこと。頑張ったこと。全部が全部を否定され、詰(なじ)られ貶(けな)され謗(そし)られて、辛くて悲しかったのだ。そして、実際にその通りだと思えてしまったちっぽけな自分自身が、虚しくてどうしようもなかったのだ。
.
「そう、感じてしまったんですね。そう感じてしまったことが、とても痛くて耐えられなかったんですね。それは、本当に、苦しく非道(ひど)かったことでしょう」
そして、続ける。
「坂田さんは、坂田さんらしいだけで、それはちっぽけなこととは違うと、―――俺は思いますよ」
泣いて、泣きながら喋って、すすり泣いて、喋るうちにまた泣いた。
むせて、咳き込んで、洟もかんだ。麻祈には、それも聞かれたろうと思う。恥ずかしかった。腫れぼったい顔に、一層の紅潮を覚える。麻祈は、どんな顔をして紫乃の話を聞いているのだろうか? 声色は、訥々とだけ呟かれる。そればかりだったけれど。
麻祈の声は上野について語る最後の時だけ、憶測を孕んだ危うさを警戒してか、呂律が一層に引き締められた。
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