. 迷惑、こんな程度、みじめ、なにもできない、どうしようもない。それらを、ウツと記した片仮名を中央に据えた関連図として、メモ用紙に書き留めていく。着々と、ケーニヒスベルクの橋を思わせる図表が白紙を侵食した。
それを、麻祈は見詰めていた。
「ごめんなさい。迷惑ですよね。疲れてるのに、こんな話。やですね。気にしないでください。変なの。こんな、しみったれちゃうなんて、あたしも疲れてるみたい―――」
耳から沁み入る声は震えている。つかえて先に進めない。それは自分の非であると、彼女は謝罪を繰り返す。
それこそが誤りであることを、彼女は知らずにいるからこそ。繰り返す。
よって麻祈は、それを告げた。
「嘘ですね」
告げ続けた。
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「あなたは疲れてるんじゃなく、傷ついている。俺にはそう感じます。であれば、それは愚痴ではありません。だったら、俺に聞かせてくださいませんか?」
そして、彼女の沈黙が始まる。
ただしそれは、拒絶ではない。坂田は戸惑い、葛藤している。導かねば挫折するかもしれない。麻祈は、囁き続けた。自分はここにいることを、そこにいる坂田へ示し続ける。
「坂田さん? 坂田さん。どうしました? どうか、したんですか? 坂田さん」
ぐう。またもや、その音が聞こえた。そして、それを飲み込む音にすべきではないと麻祈は判断していたし、ならばどうすべきかも分かっていた。
それゆえに、継続せずにいられない。
「あなたが、どうして、どうかしてしまったのか。それを、俺で良ければ、教えてくださいませんか?」
ぐう。それが聞こえる。
だから麻祈は、声音を絶やさない。力ある信念を持って、誠心誠意の言葉を紡ぐ。己の無力と無能を信じ込んでいる者へ、才知ある教導者として、正道の存在と正道を行ける者への賛美を言祝(ことほ)ぐために。
そのすべてが、真っ赤な嘘であったとしても。
麻祈は、口を開いていた。
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