. 心理には深層と表層があると、とある学者は分析した。深層こそが表層へと伝播し、身体的・心理的な波紋となって表出するのだと。
詳細はともかく、麻祈は逆説的にそれに得心し、役立ててもいた……つまりは、表面的にでも身体的・心理的な異変が失われてくれたなら、深層も多少は安定したと見ていいだろう、と。それこそ、その異変が失われた静けさが、完治しての平穏なのか、吐露しきっての寂寞なのかは問題ではない―――後者ならば、いつか前者となることを目標に、自分が付き合っていけばいいだけのことだ。人間は赤の他人にはなから深層など見せはしないし、その当人でさえ把握しかねている部分がほとんどなのだから、最初に大元の深層から安定させようとするドラスティックな姿勢は危険だというのもある。名言を借りるなら、底なし沼の深遠を覗いている時、己は深遠から覗き込まれているのだから。
.
ゆえに麻祈は、坂田の様子に、水面(みなも)に浮いた波紋のイメージを重ねていた。
静かで穏やかであることに慣れていた湖面が、ひどく波打っている。波打っていることに動揺して、動揺している自分に傷ついている……そして、無自覚のまま、そんな自分から今までの自分を守ろうとして、無感動(アパシー)を来たしていた。だからこそ、無理がきていた。典型的な防衛機制だ。典型的な。
(それを教える必要がある)
あなたはひとりではない。それを教える必要がある。
[0回]
PR