本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。
「ぶっぶぶブッブーどーらいぶーう♪」
「……なんて言うか。『ドライブする』という未知の言い回しに接した あの時を思い出した俺だ。運転中なのに俺」
「運転手は、事故を起こさにゃなにしたっていいよー」
「なら手始めにセクハラすっか。佐藤、スリーサイズは?」
「りんご3個分」
「それ体重じゃね?」
「あれ? そうだっけ。でも、りんご3個分の体型ってのもありそうな気がする。ダルマ落しっぽく縦に積んで、上からシナノスイート・シナノゴールド・ジョナゴールド」
「夢を持ちづらい例え話やめろよ。シナノとジョナがスイートでゴールドって、しばりがキツすぎるだろ。ふくらまねーな妄想。ふくらまねー」
「そだね。やめとけば。悪いこと言わないから」
「うん。そうするわ。ありがとう。って、なんだこの丸め込まれた感」
「にしても、これがアサキングの愛車かー。
なんてーか、普通だね。こだわりないの?」
「あるっちゃある」
「およ? これ、単なる日本車でしょ。改造してるとこもないみたいだし」
「そうだよ」
「じゃあ、どこらへんにこだわり?」
「外国車じゃないとこ」
「ほえ?」
「80マイルで大通りをかっ飛ばしつつ窓からコンドーム風船して馬鹿笑いしてた馬鹿時代を味わっちまうと、日本のクッソせせこましい道路をチンタラ行っては停まり行っては停まりする姿が憐れで見ちゃいらんないのよー」
「あ、それで量産品の国産車ってわけ」
「そう。日本なんだから日本車で充分。
ってか、俺は雨量も多いだろう日本の雪国でオープンカーに乗ってる奴が意味分からん。かっ飛ばす楽しみがない上に、ホロじゃ冷暖房効率が悪過ぎる。ありゃ、からっからに乾いた一直線を100マイルでぶっとばしてナンボのモンだ」
「そりゃ、あんたからしたらそーだろーけど。
ちなみにアサキング、日本車の中でも、なんでこの車を選んだの?」
「変な名前じゃないから」
「変?」
「……まあ、夜だからいっか。
あっちの言葉だと、『売春』とか『オ○ニーにふけってる奴』とか『膣』とかヒッデエ意味の車名したやつあるからな。ンなもん買えっか」
「へー。ついさっきコンドームとか言ってた口でも、一応そこは戸惑うんだ」
「感心そこかよ。
あと『ハナクソ』も『見せかけ』も嫌だし、『アヒル』だって『デカ鹿』だって論外。懐具合なんかも鑑みて、俺的にはコレに落ち着いた」
「だーから、全部分かっちゃうあんたが器用ビンボーなんだってばー。とほほって受け流すのに慣れりゃいいのに」
「……じゃあ訊くが。佐藤。旅行ついでに旧交を温めようと立ち寄ったダチ公が『あれは……』って書かれた車に乗ってたら、『どれだ』って両手叩いて大爆笑じゃね?」
「じゃよ」
「じゃねーかよ、やっぱり! そうされんの俺なんだからな! 人ごとだと思ってコノヤロー!」
「うひゃひゃひゃひゃ! 胸毛もはもはの金髪碧眼マッチョが『おとめ』ってロゴシャツ着てるのと同ジャンルのおかしさがとめどなくうひゃひゃひゃひゃ!」
「シャツなら何枚でも取り返しつくけど、俺の場合、車だぞ! 普段着感覚でとっかえひっかえ出来っか!」
「あ。でもあたし、『母国で語るには恥ずかしいけど、心身に刻んでおきたい大事な心得を刺青(イレズミ)の漢字に託したんだ』って異国人の腹に、でかでかと『愛・信仰・健康』って彫られてんの見たことある」
「車以上の猛者(もさ)キター! 生涯乗りこなさなきゃならんマシンに取り返しのつかない看板を背負わせたー!」
「医者としては、死相まであと一歩の老人となった彼を診察せねばならなくなった場合、立ち会った医師のいたたまれなさが半端ナイだろーなーと」
「いや……さすがにその頃には母国に帰ってるだろ、彼……」
「やっぱあれだね。異国になると解放感からやらかしちゃうのは、アタマん中だけにしときたいもんだね」
「異論ありませんとも。まったくです」
「あ。でもあたし、アタマん中から異国を開放してる人知ってる」
「は?」
「日本でラジオの司会者やってる、イギリス系の白人同士の混血の人でね。実家で日本人の留学生を受け入れたんだけど、日本人は『日本人らしいイイトコどりを英語でやらかす』癖があると。それが気に食わないことを垂れ流すラジオ」
「よく放送が許されたな。それ」
「許されてないよ。ゲリラジャック放送を散発的に」
「なにがそこまで彼を駆り立てるんだ!?」
「性能がいいってんで日本製のノートパソコンを購入したら、スペルの自動補正機能で『 colour (英語の『色、色彩』)』が『 color (米語の『色、色彩』)』に勝手に変えられることに我慢がならなかったのが切っ掛けとは言ってたかな。正統派よりも大衆に阿(おもね)るのかゴルァ( ゜Д゜)! みたいな」
「……んなもん、お互い様だろうがよ。
俺のダチだって、『全日本大会』のことを『禅日本大会』だって勘違いして大興奮だったぞ。残念ながら、日本本土じゃさほど『禅』思想は行きわたってねーってのに」
「あー。『ZEN』は温度差すげーよね。
ま、とりあえず、縁があったらそのイギリス系の彼のラジオ聞いてみてよ。車のこのチューナー合わせとくからさ」
「分かった分かった。そのままにしとくわ」
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