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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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「段先生、清潔感を絶やさないしさぁ」

「不潔感漂う医師に診療されたかないです。俺が」

「にしても、髭剃り・寝癖直し・ハンドクリームどころか、冬に入ったら欠かさずリップクリームと肌荒れ軟膏まで持参します?」

「……よくご存じですね、俺のデスク回り」

「わたしがあげたクロスワードパズルが絶賛ネグレクト中なのも知ってますよー。あと、おすそ分けされてばかりの小包装のお菓子の山、そろそろ標高が低い順に消費してったほうがいいね。歯ブラシも天寿が近い。愛用のコンパクトヘッドタイプ、買い置き大丈夫?」

 じゃっかん引いてしまうが、微動だにしない橋元を見ていると、自分の無関心さの方が病的なのかと思えてくる。余計な疑惑でたたらを踏むのを避けるには、踏み込みかけたつま先を戻すのが一番だ。直前まで、なんの話をしていた? リップクリーム? 軟膏? 麻祈の身だしなみについては、不可抗力だろう。祖父と妹の関係が―――

「段先生?」

「あ―――いえ」

 はっとする。言い逃れるのにかまけて口走りかけた事実に、ぞっとしないでおれなかった。弁解の矛先を捻じ曲げる。

「……身だしなみについては。自分の肌の脆弱性を知っている手前、ケアをサボるのは感心できないだけです。見た目からして不健康そうな医師に診療されるのだって御免ですから。俺が」

 その回答するまでの不自然さこそ橋元の感興を買うかとも思えたが、彼はそこまで粘着するでもないらしい。深入りする言葉は無かった。

 なので、またしても再開した妄言の方に、耐えるしかない。

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「ほんと何でも知ってて、歩く広辞苑だし」

「覚えたことを忘れていないだけで大袈裟。てか、歩く広辞苑って器物霊じゃないですか。せめて妖怪じゃなく、現存する生物に分類して戴けませんか?」

「けど時々ぽろっと無難な一般常識あたりが抜けてるもんで、なおのこと天然っぽいカワイゲあるんだよねぇ。疣贅(ゆうぜい)って読み書きできて意味も知ってるのに、温泉卵がただの町で売られてるなんて日本の物流すげぇってしみじみと―――」

「知ってます今は温泉卵が温泉で茹でられた卵だけに付く商標で無いのも知っていますしコンビニで売られてるそれも毎朝毎朝温泉郷から産地直送で宅配されてくるものじゃないことまで知り尽くしてます。ってか、しょうがないじゃありませんか! 俺、外国産なんですから、日本の通俗なんて知らなくても! ―――そうそれ、その『天然』という言い回しも。癪に障らない程度の馬鹿のことを、あたかも褒め言葉のようにほのぼのと……」

「良家の次男生まれで、海外を如才なく渡り歩いて学業を修め、帰国して入学した日本医大は主席卒業って経歴もまた華麗だし」

「良家え? 大昔に成金だったってのが、そんなに鼻にかけることですか。実績があった太古ならいざ知らず、没落した今になってまで―――それこそ、品の無い。それに、俺が次男に生まれたのは先に兄が生まれていたからで、海外で育ったのだって父について回っていた惰性です。医大は、勉強するところだから、とにかく必死に勉強してただけであって、」

 破れかぶれに、麻祈は橋元に噛みついた。

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「じゃあ逆に、モテない根拠を教えてちょー」

「ちょ?」

「反面教師に頑張るからさぁ」

「はあ」

 と安請け合いしたところで、どこから手をつけたものか、判断しようがない。麻祈は譲歩を願い出た。

「でしたら、俺がモテるという根拠を教えて戴けますか?」

「ガッテンちゅー」

「ちゅ?」

「いいからいいから」

 そして橋元は、無気力なのか気楽なのか両方とも混在しているからそんなにもタダ漏れなのか、とにかく瞳の光と声を間延びさせて、こちらを宥めすかすように両手をぺらぺら翳してみせる。

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「佐藤先生がいなかったから、遠慮無しに話しかけられたり、料理盛られたり、酒注がれたりしてたじゃん。そうしてきたみんな、結婚してない女の子ばっかりだったこと、知らないの?」

「知るはずありませんでしょう。既婚・未婚のワッペンでもついてましたか?」

「いや。ワッペンはさすがに。でも、なんてーか。顔に書いてあったっしょ?」

「あったかもしれませんね。だとしても俺、極東産の扁平な顔で厚化粧されると、カンバスに油絵描いてある並みに原型が分からなくなるんですよ。年齢からして。ちんぷんかんぷん」

 化粧どうたらから小杉のことを連想して、そういえば何歳かすら尋ねていなかったことを思い出す。そんな仲に発展していなかったどうこうでなく、興味を持っていなかった。聞いたところで実感が湧かないからだ。もとより、正面切って女性に尋ねてよい質問でもないのだろうし。

 兎にも角にも、麻祈は抗弁を続行した。

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「なに? そっちこそそれ、戯言でも寝言でも厭味でもないの? 謙遜ですら?」

「は?」

「どう考えたってモテるでしょ段先生。実際、佐藤先生と付き合ってるって公言なさるまでは、同科のわたしを経由してまで色恋系の探り入れようってしてくる子だっていたんですよ? カワイいのに呼び止められて期待に胸と小鼻膨らませてたら、ちょっと気になるんですけど段先生のことが……って切り出される切なさ、知んないでしょ」

「あけっぴろな奴より、だんまりな奴の方が詮索し甲斐があるだけのことに、なにを盛り上がっているんですか? 後ろ暗い楽しみだからこそ、わたしに直接訊きに来ないんでしょう。今の噂話と同じです。どいつもこいつも、いい歳しておいて、頑是無い」

 刺してくる毒虫なら叩こうとの決心もつくが、飛び回るだけのそれを払うのに躍起になるのは愚行だ。行いが愚かなだけならまだしも、その愚行こそ見物しようという物見客や、物見客に釣られた野次馬まで引き寄せてしまっては本末転倒だ。だから放置している。傍観者は傍観し終えれば去っていくのだから、それを待ってさえいればいい。ルーティンだ。

 麻祈は、忌々しく舌打ちしかけた舌頭を、口蓋に押し付けてやり過ごした。それだって、やり慣れたことだ。

 と。

「前にあった、職員懇親のための、ドクターからParamedic(コ・メディカル)まで参加したバーベキュー大会。覚えてます? 段先生、最後らへん、参加してましたでしょ?」

「……はい。タダ酒に釣られて」

 脈絡ないが、言われれば思い出す。

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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