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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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  Pardon(パードン)は、英語でも米語でもフランス語でも使うことがある、まあそういった単語だ。細かく言い出したらキリが無いだろうけど、おおまかに「(相手からの)許し」という意味を持つ言葉だと理解しておくと、使い勝手がひじょーにヨロスィーと思う。

 相手との会話でフレーズを見落としてしまった時に語尾に疑問符付きで聞き返すことで、「もう一回言って」という意味になったり、擦れ違いざまに肩や足がぶつかってしまった時に「おっと、許して」って意味になったり、道を尋ねる際に「ちょっとごめん!」って呼びかけに使ったりする。あとは、誰かと一緒にいる時にうっかり屁こいたりしたりしても使うかな。

 つまり、「(自分のヘマのために、あなたを手間取らせたり不愉快にしたりすることに対して)許しが欲しい」ってことさ。

 Sorry や Excuse との違いは、関連した話題としてよく取り沙汰されるので、ついでに俺っぽく言及しとくと……

 Sorry
 →これは、意味合い的に「困った状況・悲しい状況にある」ってノリ。
  だから、「 I’m sorry. 」は、自分に因果のある困った悲しい状況が起こってしまった後に出てくる言葉、要約して「ごめんなさい」って風に定着しちまった。
 でも実際は、『「困った状況・悲しい状況にある」相手』に対して使うことも多いんだ。肉親を亡くした方へ、「I’m very sorry for your loss. (お悔やみ申し上げます。)」と言うのは、決まり文句だよな。
 つまり、誰かを引きとめて呼び留めるのに、日本語の「ちょっとゴメン」って感じで使うのは不適切。まず間違いなく、相手は「え? なんで? なにがあって君は自分が困ってる・悲しいって俺に話しかけるんだ?」ってなっちまうからな。

 Excuse
 →これに比べると Excuse は、より Pardon の意味に近い。ただし「相手からの許し」が欲しいって言うよりも、「(自分がこれからすることのために、あなたに迷惑を掛けると思うけど)勘弁して」ってノリかな。「お許しを」ほど大袈裟じゃないと言おうか……
  そうそう。だから Excuse も、Pardon と同じく、文頭(呼びかけ)に出てくることが多いんだ。Sorry は語尾に(あるいはイベントが終了して、困った悲しい状況が残った矢先に)出てくるから、一番の違いはこれかな。
  Excuse も実際、me にでなく、「 Excuse us. 」「 Excuse you. 」といった風に使うこともあるから、ここも共通点。
  つっても、「 Excuse us. 」はともかく、「 Excuse you. 」はあまり使いたくない言葉だが……

 じゃあまあ、今回はこんなところで!

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「てっこつのくせに! なんでも知ってるくせして意地悪!」

「だと思うのも止めないよ~」

「なによ! もう! 葦呼なんか! もういい、由紀那とこれから盛り上がってやる!」

 華蘭が捨てぜりふを置き去りにして、ばっと喫茶店の玄関にとんぼ返りした。葦呼はのらりくらりと手さえ振っているが。

 出ていく直前に、華蘭に振り向かれた。

「紫乃っ! また今度ねっ!」

「あ……うん。はい」

 そして、紫乃の返事もないがしろに、外へと消えた。

 そうだ。これが華蘭だ。言うなれば青天の霹靂だ。どうしてなのか因果も分からないし、当人ですら自覚はないけれど、ぱっと誰彼ともなく目を眩ませて消えてしまう。何回も……今回も。
閃光に中(あ)てられた直後のように、眩暈じみた感覚にくらくらしつつ、そんなことを思っていたからか。こちらへと向き直った葦呼の表情を、上手く読み取れない。

 お馴染みの、とぼけているようでいて底が知れない、のっぺりとした輪郭をしていると思えた。彼女がそういう風に取り繕っているのかも分からなかったし、自分がそういう風に分かったつもりになって片付けたがっているのかも知れなかった。

 その顔が、さっと紫乃から翻って、横下に下がる。葦呼が、ずれたテーブルを掴んでいた。

「それじゃあたし、片付けたあと、店長と話あるから」

「あ」

「片づけは、あたしだけで足りるから。出る時、ドアプレートだけ裏にしてって。休憩中って表示に。頼んだよ」

 物言いから感じた取り付く島の無さに、紫乃はテーブルへと伸ばしかけた掌を反射的に引っ込めた。

 そうなると、もうその手は、床に落ちてしまっていた自分のトートバッグを拾い上げる役くらいにしか立たなくて。

 となると、店を出るしかなくなって。

 玄関先。締め切る前のドアの隙間から、そっと店内を覗いてみるけれど、葦呼は黙々と荒れた室内を整えているだけで。話があるという店長でさえその場に未登場となると、自分を引き留める要素が無いことを再確認するしかなく。

 ぱたんと閉じた戸板の真ん中で、来た時は気付かなかったドアプレートは、もう勝手に『休憩中』になってしまっていた。

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.長年染め抜いて金髪になりつつある茶色のロングヘアをはためかせつつ、華蘭がいやいやと頭を振りながら悲鳴を上げた。店の惨状は店内に踏み込んだ時点で把握できていただろうが、それでも未練たらしく横転した椅子や定位置から躄ったテーブルの脚跡に流し眼をくれてから、がっくりと肩を落とす……そこから外れて落ちかけたハンドバックの肩紐を、見もせずに中空で掴み取ったのはさすがだ。

 そして、嘆息ひとつで分かりやすく落胆を終えると、どことなく項垂れていた頭を上げる。未だに残念がってはいるものの、けろっとしたものだ。悪意なく楽しんでいた悪夢が覚めてしまったとあっては、興醒めするのも事のほか早い。

「あーあ。だったら顛末聞く前に、忘れそうなこと訊いとく。葦呼なら分かるよね? ぱるどんってなに? 気をつけてね、とかそーいった系の海外のリップサービス? さっき道でぶつかるのを避けたはずみでコケそうになった時に、外人に言われたんだけど」

「ぱるどん? Pardon(パードン)なら、ごめんよ、って意味でいいと思うけど。ちょっぴりヘマしたり、ヘマしかけたら使う」

 やはり平然と、葦呼。

 そして、いつもながら、華蘭。

「え? ごめんよって、アイムソーリーじゃなくていいの?」

「ぶつかりかけたことに対して自分に非があるならそっちの方がいいし、自分に非が無いならExcuse me(エクスキューズミー)の方がいいかなとは思うけど。もうちょっと丁寧なニュアンスで伝えたいならPardon(パードン)になるかなぁ。多分、フランス語由来な分、プチ上品に聞こえてくれるんじゃなかろーか。まあ、どの国で誰相手にどんなシチュエーションで使うかによりけりなのは大前提として」

「へー。プチ上品―――って。ちょっと! そしたら、さっきのアレが段ってボンボンなんじゃないの!? もしかして!!」

「かぁもねぇ。ボンボンかどーかは華蘭次第だけど」

 葦呼の言い草に、はぐらかされていると感じたらしい。即座に、華蘭がいきり立つ。

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.視界がブレる。揺れる。そして、跳ねる。締め上げられた胸が苦しい。いつしか真正面に詰め寄って来ていた葦呼が、紫乃の胸倉を掴んでいた。咄嗟に逃げようとした身体が跳ねたが、その華奢な体つきからは想像だに出来ない万力に締め上げられて、身じろぎにもならず終わってしまう。逃げようとした? なに様のつもりで?

「ごめ―――」

「やめなさい」

 葦呼が、咆哮した。

 呟くような声量だった。それを独白するような声の質だった。それでも確かに、それはこちらへ向けられた吼え声だった。葦呼が、前髪同士が混ざり合うほど間近まで、紫乃の顔を引き寄せる。筆舌に尽くしがたい情動に燃え上がる瞳を、見るしかない。
その炎が嚇怒であったなら、紫乃は中断した謝罪を再び取り戻していたはずだ。誰かを怒らせるのはいつものことだ。それに謝ることだって。

 そのはずだったのに、葦呼の瞳の揺らぎが、まるで泣き出すのを堪える子どものようだったので、紫乃は言葉を失うしかなかった。

 葦呼のせりふが、自分の吐息を轢き潰していく。

「前に言ったよね。教主になるなら狂うんじゃない。こっちまで、真っ当にやっていきたくなくなる―――!」

 と。

 声を土壇場で閉ざし、両目さえ閉ざして、葦呼が俯いた。

 亜麻色の髪に、紫乃の顔半分が埋まった。ふうわりと、鼻先にシャンプーの残り香がする。ふと、身体が楽になった。葦呼が、紫乃を拘束していた手を解いたのだ。

 それから、言ってくる。まるで今先の全てが幻影だったかのように、呟く―――ひとりごちている。

「こんなこと、言う気さえ失くしてくれるんだから。あの王様は」

 ―――そして、ふらりと紫乃から離れながらのそれも、恐らくは、独り言だった。

「あんたら。本当に、お似合いだ」

 その時だった。

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.紫乃は、へらりと弛んだ顔のまま、阿呆のように立ち尽くしていた。

 葦呼も、ずっと立っていたけれど、ふわりとした髪に隠されてしまっていた横顔の顔つきは、杳(よう)として知れず。

 真顔の麻祈は、きびすを返した。

 そのまま、歩いていく。喫茶店の出入り口へと。行ってしまうのだ。それはそうだろう。彼は麻祈だ。最初から、別世界の人だったのだから。別の世界に戻るのは当たり前じゃないか。

 そんな風に割り切るなんて、紫乃にはもう出来ないのに。

(あさき、さん)

 拒絶されても縋ってしまう。

「―――あさ、き、さん」

 縋るならば、呼んでしまう。

 彼が、―――

 立ち止まって、振り返った。紫乃へと。こたえてくれた?

 合コンの夜にそうしてくれたように、彼はまた出入り口のドアノブに手を掛けながら。

 ただし今日は逆光で顔が見えず、呟きだけが肩越しに響く。

「それがなにか?」

 それがなにか?

 彼は麻祈だ。それがなにか?

 分かるか? ―――そんなことさえ問うてくるしかない、お前。“それこそが”。

(ごめんなさい)

 彼に、とどめまで頼ってしまった。それに気付く。

 血の気と共に、体温までも下がった気がした。視界まで暗くなる。そればかりは紫乃に起因したものでなく、陽光を差しこませていたドアが閉まってしまうからだ。閉まってしまう―――

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プロフィール

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DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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