「―――あ。アサキング、しらが発見」
「おー。俺の毛根も、ついに色素を作れなくなる奴が出たかー。オツトメご苦労さま。
佐藤は、全然しらが無ぇのなー。それとも染めてんの?」
「茶髪も癖っ毛も地だよー。あたし黒目も茶色っぽいし。薄いんだ、そもそもの色が。
まー、どーせしらがになるなら、若いうちになりたいもんだけどね」
「? そうなのか?」
「若しらがは幸せになるってジンクスあるじゃん」
「……どう言う意味だ? それ」
「幸せな若者時代のまんま、頭まっしろけの年寄りになるまで行けるぞってことでないの」
「いや、そうじゃなくて。お前今、Jinx って言った?」
「言った」
「幸せになるのが呪われた巡り合わせって、どーいうこった?」
「およ?」
「……またか。これ。
あーめんどくせー」
「となると。本場じゃ、ジンクスって、呪われた巡り合わせって風に使うの?」
「ああ。縁起がいいとか、幸先がいいとか、吉兆だとか、ンなことにゃあ使わねー。
その、ちょうど正反対の時にだけ使う」
「へー。具体例は?」
「好きなサッカーのチームが連勝してる時に、それを大っぴらに口にしたりしない」
「? 自慢してると、疫病神が鼻っ柱を折りにくるってジンクスでもあんの?」
「うーん。合ってるよーな違ってるよーな……
あっちじゃ、成功続きなのは次に失敗する巡り合わせだからだって考えるんだ。『うまくいきすぎなのは、大コケさせるための運命の罠』とでも言おうか……
だからサッカーチームの連勝を口にすればするほど、次は負ける予感が強まるみたいだぞ。
最近の体調とかでも、うっかり『こわいくらいうまくいってるじゃん』って褒め方すると『言うなよ、マジ勘弁』って窘められたりする」
「ほうほう。興味深し。
大人になってもそうなら、子どもの頃から染み付いてる文化なんだろーね」
「ああ。子どもは Jinx 遊びするからな」
「ジンクス遊びとな?」
「いやまあ、遊びじゃなくて真面目にやってるとも限らんけど。
子どもにとっちゃ『 Jinx! 』は、友達同士でせりふがハモってしまった時にする厄払いの呪文ってのがメジャーなんだよ。「 Jinx! 」って先に言った奴が、言い損ねた奴に不運を押しつけることが出来るんだとさ。いち抜けたって」
「へー。日本にも、えんがちょってあるけどね」
「えんがちょ?」
「うん。厄払い。
忌まわしいものに接してしまった場合に、両手のグーから立てた一本指の先っちょ同士をくっつけて、その接点を、誰かほかの子に切ってもらうの。二本指をナイフに見立てたポーズで、えんがちょって言いながら。
指の接点ごと、厄とも縁が切れるってことじゃないかな。きっと」
「誰かに押し付けるだけタチ悪ぃなオイ。西洋」「いや、えんがちょにもバリエーションあるから。今のは、某有名アニメ映画で流行したバージョンだよ。
あっちだと、どんなシーンで繰り広げられるわけ? ジンクス」
「そーだなぁ。
二人の子どもが母親になにか言われて、嬉しそうに「スーパー!」って口を揃えた途端に、一転して「ジンクス!」「ジンクス!」と喧嘩を始めたりとかかな」
「ふーん。厄のなすりつけあいだ」
「だな。まあ、「 Super! (やったぜ!)」にケチがついちゃたまんないだろうから、そりゃそうだわな」
「むう。あたしは意図せず、若しらがを不運におとしめるところだったのか。不覚!」
「―――あ」
「およ? どうかした?」
「佐藤。今キラッてした お前のそれ、しらがじゃね?」
「うはぁ! Jinx! よっしゃ、いち抜けたっ!」
「若かねーしガキでもねーしハモったのせりふじゃねーし、Jinx が入る余地ねーよ」「うっさいやい。折角のイングリッシュ遊びの機会じゃー。付き合えー」
「いいけど、そしたら若しらがの幸運は俺がもれなくひとり占めだぞ」
「にぎゃー!」
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