. 腰に結わえたキーチェーンがベルトの金具を打ち鳴らし、がしゃりと高鳴った。待て。声高なそれが、警告音だとしたら? 構うものか。佐藤には全裸だって見られたことがある。あれは故意でなく、不慮の事故だったが……
そして。下着のタンクトップ一枚の上背となった麻祈は、佐藤へと胸を張った。
「どぉだ?」
居直って、腕組みする。そうすると、あの時は手で覆い隠していた右上腕の裏に巣食う引き攣れが、一層に露わになった。佐藤なら、ひと目で見抜いたろう―――それが、全層植皮術の典型的な失敗例であること程度。そしてそれ以外の、麻祈の上半身に散見できる傷痕が、不慮の事故ゆえ脳に引き起こされた幻影ではなかったことも。
向こうの座敷席とは違い、この椅子席には個々に垂れ幕がかかっているので、男ひとりが突然ストリップをしたところで注目を浴びることもない。何事もなく数秒が過ぎる。
そして佐藤が、口唇を蠢かせた。こともなげに。ひどく疑わしい口調、それに駆られるままに。
.
「どうって。あんた。本当にどうかした?」
「え?」
「それこそ今のあたしのせりふだって、なんで気付かないの? あんたはキングでしょうが。ねえ―――」
ぽかんと、声を聞く。
すぐにそう出来なくなることを知らないから。
だから彼女は、それを口にした。
「麻祈」
闇討ちされた。そんな気がした。
だからこそ、更なる闇の中へと、逃げ惑うしかなかった。不可触であった深みへの没入を、歯止めなく。それしかなかったのだ。本当に。
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