医療職にも、業界用語があるんだよー。
癌(がん) →「クレブス」。これはドイツ語の Krebs の日本語読み。英語の Cancer や Carcinoma から、キャンサー、あるいはカルチって呼ぶこともあるよ。「胃カルチが~」って言ってたら、胃がんって意味になるね。
メタ →癌って、別名「悪性新生物」って言うの、知ってる? どうして悪性新生物なのかってぇと、正常な人体にとって悪性を示す増殖を繰り返す生き物が、癌だからなんだ。破損した遺伝情報に沿って、トンチキな細胞分裂をしまくって、健康な肉体を侵してしまうイキモノってこと。若いうちは免疫が、そいつらを駆逐してくれるんだけど……
そう。つまり、免疫が対峙しきれないくらい ぞくぞく増えた悪性新生物は、血流やリンパの流れに乗って、飛び火する。これが転移。Metastasis が語源だよ。
「大腸と肺か。メタだ、こりゃ」ってのは、おおもとの大腸癌から肺癌が転移したって意味になるね(癌は発生部位によって、それぞれ転移しやすい場所があるんだよ。中でも肺は、転移先として重要。人間は肺呼吸で酸素を取り込んで全身に血液を循環させている、イコール、肺を通らない血液はほぼ一滴もないってことになるから、血流に乗った癌細胞がくっつける機会が他の臓器に比べて多いんだ)。
……あんまり聞きたくない言葉だなぁ。
ひらく(開腹く) →開腹手術のことだね。オペ(手術の意、淵源は Operation)の一種だよ。医療ドラマで、メスでお腹を切開するシーンとかあるでしょ? あれあれ。
「ひらいてやります」ってのは、「手術は開腹で行います」ってことになるよ。
ラパる(腹腔鏡る) →腹腔鏡手術のことだね。これもオペ(手術の意、淵源は Operation)の一種。
ラパは、Laparoscopic の略。テレビで見たことない? お腹に何箇所か切れ込みを入れて、機械の棒をそこから挿入して、かちゃかちゃ機械をいじってる場面。あれが腹腔鏡手術なんだよ。
「ラパる」って使うよりも、「ラパ胆(ラパコレとも言う。腹腔鏡手術にて、胆のう摘出術を行うこと)」とか、「ラパ腎(腹腔鏡手術にて、腎臓摘出術を行うこと)」って感じで使うのが多いかなー。
ケモ(化学療法)、ラジ(放射線療法) →悪性新生物を退治するのに化学薬品を使う方法がケモ(化学療法)で、放射線を使うのがラジ(放射線療法)だね。
あたしらそのものが生物である以上、悪性新『生物』に効く療法は、正常な生体にまで効いてしまう。副作用ってやつだよ。白血病の治療で髪が抜けたりってのもそれに当たるね。
「ケモラジでいきます」となると、「化学療法と放射線療法を並行して治療に当たりましょう」って意訳になるかな。
ナートる(縫合る) →手術で切開した組織を縫い合わせること。
ナートるって使うんじゃなくて、手術の難しいところを先輩がやって、それが終わったら「ナートは任せた」って後輩にバトンタッチしたりする場面の方が妥当かな。
他にもいっぱいあるから、興味があったら調べてみてねー。
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【はみだしDNDDこらむ】
こーいった業界用語は業界人にしか通じないってのを、割と忘れがちなのこそ業界人なのかなと思います。
しかしそれが医療職ってなると、他の業界人よりも、危なっかしいよなぁと思うわけです。なんのせ、病院にやってくるのは(ほぼ)病人。例えるなら、急に腹が痛くなって不安で辛くて生まれたてのバンビのよーにブルブルしてるところに、白衣の奴が裏でこそこそ「アッペですね。ラパアッペしてもいいですが、ちらせないかやってみましょう」とか打ち合わせしてたら、小耳に入れた瞬間から
ハートのビビリの火に油ですよね。一般の方は。 ちなみに↑のせりふは、「虫垂炎、いわゆる『盲腸』ですね。傷口が小さくて済む腹腔鏡下にて手術を行うことも可能ですが、臓器を温存する方向で、まずは薬物による鎮静化を試してみましょう」っちゅー訳になります。虫垂炎が appendicitis だからアッペ。ついでに虫垂(ちゅうすい)って、ほんとに虫が垂れてるよーな形状しとります。
あと蛇足で言えることって言ったら。そーだなぁ。
腹腔鏡手術の練習は豚でやることかな。あと、ラパ胃したら、へそから胃袋取りだすこととか。
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