. 閉会の時間となり、麻祈はテーブル会計のために店員を呼んだ。いつものように飲食量に準じて折半する。あとは解散と、シャツと抄録集を携えて、席から腰を浮かせかけた麻祈だが。
疲労によって人間的な様相の絶滅が危ぶまれる店員が、クマをこさえた目元をしょぼしょぼさせながら尋ねてきた。
「お持ち帰り容器は、何個ほど必要でしょうか?」
「これ全部入る分」
よく分かっていない麻祈を追い越して、佐藤が挙手しながら返答をした。当てられる前に答えるなら挙手はいらんだろうとツッコむ選択も検討したのだが、とりあえず双眸に疑問を燈しながら彼女を眺めておく。
承知しましたとUターンしていく店員を見送ってから、佐藤が答えてきた。
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「ここ、こないだから平らゲロン活動に加盟したんだよ。ほら、ここに表示してあるでしょ」
「たいらげろん?」
「そだよ。希望すれば、食べ切れなかった料理をパックして持って帰っていいよって活動。地産地消を勧める一環なんだとさ。そんでもって、」
と、壁面の広告をつついているのに一向に視線を流さない麻祈をせかすように、佐藤は人差し指をくにくにさせた。小突く激しさが増すだけだったら目を引かれなかったのだろうが、そんなことをされては、どうにもそちらを見るしかない。佐藤のまるっこい爪が、それ以上に丸々とした黄色のヒキガエルを突っ転がしていた……まあ自分にとっては、爬虫類の一種ではなく、目玉のついたトリッキーなダンベルとしてしか印象に残りそうも無いが。
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