. 受け取ったぺらいプラスチック容器をぺこぺこさせながら、佐藤が喋る片手間に明日の弁当を詰めていくのを、興味なく惰性で眺める。きれいな箸の持ち方をしていると箸捌きもきれいなんだなと、なんとなく新たな発見を胸奥で転がしながら。
佐藤が皿軍団の残存兵半分をみっつの容器に収容するのを見届けて、麻祈は席を立った。本を包むようにしたシャツを脇に挟んで、肩を竦める。
「終わったんだし、行くべ行くべ(The party is over. Vamos,vamos.)。ほら。送っていくから。それともタクシー呼ぶか?」
「え? アサキング、ちっとも持って帰らないの? これ全部いらないの?」
「俺の地元じゃあるまいに」
.
と、貧民窟と最先端の首都が混和している中近東を思い出して、言葉を途切れさせる。鼻の最奥に、香辛料と砂と野良動物の臭気に汚濁しては天へと吹き去っていく風を嗅いだ。すると、そこに独居している父の姿までも思い出す。
(圭一さん、お元気でしょうか。実家には連絡が行くのでしょうけれど、わたしまでは届きませんし)
脳裏では自然に、父と同居していた頃の日本語が流れた。
そして、その口調と、眼前の佐藤の姿とに生じた矛盾感に、現在進行形の風景を取り戻す。御覧あれといった両手の仕草でテーブルの残り物を披露したままの彼女へと、麻祈はせりふを再開した。えも言えぬ郷愁など無かったかのように。
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