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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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. 麻祈は、佐藤から少しでも距離をとるべく後ろへと躄(いざ)っていた。その物音も、確かに立ったのだが。彼女は、麻祈のうわ言を聞き逃さなかった。更には、怖気づかなかった。

「はあ? あんた麻祈でしょ。なら見るよ」

「だ、から。そんなの、―――」

「んげ。本気でどうかなった? どうもしてないって言い張るんなら、それを自覚して誤魔化すしかないくらい、どうかしちゃうよーな熱でもあんの?」

「ぅあ」

 額へと伸びてきた彼女の手から、上体を屈めて逃げる。追ってきた。逃げ切れない。その指先を払いのける。

 佐藤のそれと衝突させてしまった己の片手を、もう一方の手で胸倉に抱きこんで。麻祈は絶句した。喘ぐ。

.
「あ……ちが、」

「違ってても合っててもいーから。そんなの。んで、どうなの? 涼しい?」

 言われ―――

 麻祈は、自制心が芽吹くのを感じた。伸びていく枝葉を追走するように、支配を取り戻していく。引っ込めた手を膝に戻した佐藤は、常の如く暢気(のんき)な平常心で彼を見詰めていた。その不動の眼差しに目を合わせると、それを取っ掛かりに、眼球の輻輳も減退していく。やがて動悸の激しさが引き、乱れていた呼吸も取り戻せた。

 狼狽を失ってしまった以上、麻祈は素で返答するしかなかった。

「……涼しいかも」

「ならいいじゃん」

「……いいかも」

 脱いで太腿にほったらかしていたシャツを、隣の空席に置く。数学学会の抄録集が隠れた。構わなかった。

 そしてしばらく、愚にもつかないことを、佐藤と喋った。

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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