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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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「坂田さんと対象者の居場所は?」

 淡々と続いていくせりふに、まるでこちらのうろたえ方が場違いだと暗喩されているかのようで、紫乃はもう相手に誘われるがまま身を任せるしかなかった。そうだ、学校の授業でもこうだった。解答することが出来ていた問題を、教師に当てられると口から先に出すことが出来なくて、「分からないのか」という断定に「分かりません」とうな垂れるしかなかった―――

 あの時と今は違う。麻祈は、なにひとつ決め付けていない。紫乃が錯綜を振り切るのを待っている。待ってくれている。

 だとしたら、自分は、こたえなければ。あの時、教師は紫乃を見捨てて満足したけれど、麻祈は恐らくそうしないから、こたえなければ。紫乃は、ぎこちなく振幅する眼球を酷使して、認識した状況を換言した。

「か、会社の寮。その、上野さんの部屋。それで、そこの廊下で、」

「寮の一室の中、廊下の上ですね」

「そう、そうです」

「両者の身の安全は確保できていますか?」

「みの、あ?」

「そうです。そこは、そのままじゃトラックに轢かれそうだとか、このままだと凍え死にそうだとか、ガスで中毒を起こしそうだとか、そういった危うい環境ではないんですね?」

「……はい。はあ。室内ですし。ガスも。そんなのは」

 冗談ではないのだろうが。冗談にしても唐変木なことを嘯かれた気がして、そんな評価を差し挟めるまでに冷静さを取り戻している自分に驚いた。驚く余裕がある自分にも気付いた。

 再びの、麻祈の質問。

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「どうも。さかた。お久しぶりです。さかた?」

「い、葦呼に繋がんないもんだからー!」

「ああ坂田さん。佐藤葦呼の。先日はどうも。お久しぶりで―――」

「たったたた助けてください! 会社の寮で上野さんが倒れてて、怪我とか血とかはないんですけどぐったりしてて全然もう、わたしどうしたらいいか分からなくて―――!!」

「ため息」

 意味不明だった。

.

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「只今お掛けニなった電話番号は、現在電源が切られてイるか、非常ニ電波が悪イ環境ニあるため―――」

「な、……んで―――……」

 万人向けの受け答えしかしない機械音声に喘いで、紫乃は自失した。万が一の事態なのに。こんなにも、万が一なのに。

 どうして繋がらない? どうしてこんな時に、電話が葦呼に繋がらないんだろう? 葦呼に繋がらない時は、どうしたらいいんだっけ? 葦呼。佐藤葦呼さとうイコ佐藤

.

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「ひッっ」

 息を呑んで、それを肺臓から搾るまでの数秒。

 その間に、それが首だけでなく、胴体と連なっていることを理解する。上野は、床に横倒しになっていた―――トイレの個室から肩口を飛び出させるかたちで、こちらに顔面を向けている。一瞬でも首だけかと思ったのは、その構図と、首まわりを縁取る長い髪によって、蒼白の細面だけが際立って見えたせいだ。実際、居室の暗がりと暗褐色のトレーナーを着た上野は、蜃気楼のように、顔だけが浮世離れして見える。

「うえ、の、さ」

 尻から太腿にかけて質量を感じてから、紫乃は自分が床にへたり込んだのを自覚した。ぶるっと震える。悪寒を感じた。それは、床の冷感によってか? まさかの霊感によってか? よもや、尿意のそれなのか? 漏らしちゃ駄目、こんなとき漏らしちゃうとは聞くけど駄目だから。だから。それだから。漏らさない以外は、どうしたらいい?

.

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. 高鳴る鼓動が邪魔だ。音なんか、それしか聞こえてこないんだから、とにかく邪魔だ。だったら耳じゃなく、目で確かめないと……室内を覗かないと……

 そうする。もうわずかばかり、ドアを開けて、首を突っ込む。見えてくるのは、小さな玄関から、奥へと伸びる狭い廊下。芳香剤の香りの中に、生活臭を嗅いだ。廊下の上には豆電球が点灯されっぱなし。パンプスが一足、横転している。誰もいない。

 そしてやはり、なにも聞こえない。

 なら、奥では音が聞こえている誰かがいるのか、確かめないと。紫乃は喉笛を吹くために、息を吸った。乾いた舌が粘膜から剥がれてひりつく。呼吸器を焼き上げてくる空気が、そこをこすって痛い。考えろ。それを考えろ。考えればいいじゃないか。二の足を踏む理由はこんなにもあるのだ。そのどれひとつも採用しないでおく理由こそ、ひとつさえありはしない―――

「う、えの、さん?」

 呼びかけた。

.

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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