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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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(……あの人にとっては、俺のこれが、あのテンコ盛りのパンだったのかな?)

 だとしたら、未遂とはいえ、手ひどい感想を返したものだ。己の仕出かした仕打ちに居心地が悪くなり、片手に鍋・口にスプーンを銜えたまま、空いた手でジーンズのポケットを探る。取り出した携帯電話のはしっこは、メールの着信を告げる色に点滅していた。

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「よくやりました……わたし」

 ずらっと隊列を揃え、上はミニキッチンに備え付けの食器棚、下はミニキッチン真横の洗濯機の蓋まで占領したタッパ軍十二機体の駐屯風景は、毎度ながらなかなかに壮観である。火を入れた食材に缶詰を混ぜたズボラ和えから圧力鍋まで持ち出して丹精込めた牛すじ煮込みまで、各々の錬度に差はあれど、すべて懇切丁寧に味と具を調整できた自信がある。腰に手を当てて痛みをほぐしながら―――まったく、踏み台を使えばいくらでも身長など足せるのだから、男女平等を謳うJPNなら水周りの高さは最初から男性用設計で然るべきだろうに!―――、麻祈は鷹揚に頷いた。鈍痛は許せる。疲労すら愛せる。

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「あ。
 ちょいとちょいと。こら。そこの」

「うん( Um? )? ―――おう( Oh, )、佐藤じゃん。偶然。
 ……って、挨拶だけじゃなさそーな気配。
  What's cooking(なんの用)?」

「 It’s no big thing(大したこっちゃない).
 なんかまたトンチンカンな噂が耳に届いたんだけど。アサキングの」

「とんちんかんン?」

あんたが電気屋でサ○ンラップ探し回ってたって。こないだの休日」

「なんでだっ!?」

「こっちが聞きたいから声かけたんでしょー。
 それとも、人違い? あんた、前の休日に、電化製品の大型量販店にいなかった?」

「いたぞ」

「サラ○ラップ買いに?」

「なわけあるかっ!
 新型のPC見に行ったんだっ!」

「ぴいしい?」

「 Personal computer!」

「ぱーそ―――ああ。パソコン」

「そうパソコンだったこっちじゃ! PC!
 ―――って。あ。あー」

「およ? なに思い当たってんの?」

「分かった。俺。
 あの時、思った通りに展示場所まで行きつけなくて、『 Laptop 』『 Laptop 』ってブツブツ言いながらうろうろしてたんだ。それを聞かれたんだ、きっと。職員に」

「ラップトップ?」

「そう。持って歩けるサイズのPC。
 椅子に座って、Lapto―――っでなくて ええと、あの、足組んだ膝のとこに乗っけて、開いて使えるアレ」

「はーん。ノーパソかぁ」

「はあ( Hah? )? 『 No pass on(ここだけの話だ) 』?」

「ちゃうちゃう。ノーパッソでなく、ノーパソ。ノート型パソコンのこと」

「『 Notebook 』だろそれ。言うなら」

「日本じゃノーパソでいいの」

「あーもーまァたこーいった行き違いの食い違いのナカタガイかよ? 俺が電気屋でサ○ンラップとか。んっとにマジ勘弁……」

「なんか韓流ドラマの大スジみたいだねえ。行き違いの食い違いのナカタガイ」

「はんりゅー?」

「うん。韓国のハンに、流派のリュウ。
 あんたン家テレビないけど、聞いたことくらいあるっしょ?」

「あったっけか? はんりゅう。韓流ねえ。
 どんなあらすじ? それ。大まかに」

不治の病と記憶喪失と泣きながらシャワーしてるうちに、独りよがりが行き違って、生死が食い違って、もれなく仲違(なかたが)いしたくせして、ハッピーエンド

俺が電気屋にサラ○ラップよりも度を越したミラクルじゃないかそれっ!?

「度を越してもいいんだよ。元から限度ないから」

「無いのかっ!?」

「うん。あるのはミラクルじゃなくてロマンスらしいけど」

「ろまんす?」

「そ。ある種の妖術
 なんでも、ロマンスで生き返るから人は死ぬし、ロマンスで済ませることが出来るから不治の病と記憶喪失と泣きながらシャワーなんだって」

「……じゃあ、電気屋に俺にサランラッ○も、ロマンスがあればアリになるのか?」

「無論アリでしょ」

「例えば?」

「ちびキングには死に別れた姉がいた。ちびキングが、残ったおかずにラップをかけたがると、いっつも譲ってくれる優しい姉。もちろん美人」

「とりあえず、ちびキングって俺か?」

「そう―――その日、いつものようにラップをかけたがった ちびキングだけど、運悪く姉が使いきった直後。
 『おねーちゃんのばか』と泣きわめく ちびキング。おろおろして、『すぐ帰ってくるからね』とラップを買いに出る姉。
 響き渡るブレーキ音。そして悲鳴。姉は帰ってこなかった

「展開が怒涛だな、オイ」

「『うそつき……姉さん、いつになったら帰ってくるんだよ!
  ほら、俺、もう子供じゃないよ―――今日も、ちゃんとラップを買いに行って、帰ってきたから。
  だから姉さんも帰ってきてよ……』
 十年。二十年。皿にラップをかけては時が過ぎる」

「限りなく不毛な二十年の過ごし方だな」

「そんなある日だった。雨の夜、彼女が玄関のドアを叩いたのは。
 ドンドンどんどん! 『お願いです! 買い占めたラップを分けてください! ラップ屋敷の殿方!』」

「屋敷外にまで巻いてたのかラップ!?」

「ドアを開けてみると、そこには生き別れの姉に瓜二つの女性。
 呆然とするアサキングに、彼女は気付かない。ただただ必死に訴える。
 『お願いです。ラップが……ラップが必要なんです! どうしても今夜、雨にぬらさないで、手紙を故郷に届けたいの―――』」

「タッパの方が良くね? 密封度的に」

「アサキングは動揺する。うろたえ、うちひしがれる。
『ラップを求めて出て行った姉さんが、ラップを求めて帰ってきた……?
 俺は、彼女に与えるこの日のために、ずっとラップを貯め込んでいた―――?』。
 震える手で、ラップを彼女に手渡すべく、箱から引き出す。五センチ、十センチ―――」

「箱まんま あげろよ」

「と、ラップが切れる。
 彼女は狼狽。『どうしよう!? これじゃ、足りない!』
 アサキング慌てて、『いや、奥に買い置きが―――』
 途端、大停電がふたりを強襲。
 世界を暗黒に塗りつぶされたところで、彼女の心には光がある。ゆえに諦めない。『奥にあるのね―――きゃあ!』
 『待て! 不用意に動くとラップに足を取られるぞ!』」

「ラップに限定されたゴミ屋敷じゃねーか!」

「怪我から血を流す彼女。アサキング冷静。
 『これは……ラップを切る部分の金具で切ったみたいだな。大丈夫。血があらかた止まったら、ラップ療法しておくといい』
 ラップを包帯してくれるアサキングに、彼女ホの字。『あ、りがと』」

「ツッコミどころ満載のくせして部分的に正しいのが、まったりとしつこいほど実にムカつく。ラップ療法」

「アサキングは分かった。彼女にラップを渡すこと、それこそが自分だけの使命だと!
 『懐中電灯を買ってくる!』 電気量販店に駆けだすアサキング!
 そして、電気量販店内にて こだます、彼の声。『ラップ―――ラップが!』
 その真の意味を知り得ているのは、今この時は、彼らだけ……」

「すいません。停電どうしたんですか? 店内」

「ちゅーわけで、ロマンスのためなら、アサキングと電気屋とラップさえ絡めた例えが出来ると証明できたね。これで。うんうん」

「……あのさ佐藤」

「ほえ?」

「俺、ラップ屋敷に住んでる引きこもりシスコンより、電気屋にラップ買いに来た おとぼけ君でいいです」

「だろね」

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「それで。なんでしょう?」

「登録社員から引き抜いてきた上野さん。上野、飛小夜(ひさよ)さん。仮雇用中の。記憶にあるかな?」

「もちろんです。彼女に女性独身寮の案内をしたのは、わたしですから。その時は大家さんが不在で、鍵を借りて。その上野さんが、どうかなさいました?」

「君は社内組だし事務だから知らなかったろうが、今週半ばくらいから、ひどく調子を崩している様子だったんだよ。上野さん。いや、わたしも営業課長から報告を受けて知ったんだけど」

 そこで、喋る言葉を考えるいつもの手癖で片耳を掻いたのだろう。社長のせりふが止まる。彼だって休日で自宅にいるはずなのだが、物音からは、まんまるの目に管理職の悲哀を漂わせながら示指で耳朶をさするデスク姿しか思い浮かばなかった。

 その温厚な丸顔に似合わない、困惑を宿した静けさの漂う声が語っていく。

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. 食事は支度してしまったし、これからパジャマを洗濯しても夜までに乾かない。テレビを観賞する気分でもない。漫画を読むという案もあるが、自室の本棚にあるのは読み古したものばかりで冒頭さえ読めばオチまで目に浮かぶくらいだし、新しく購入しようにも、これから化粧してまで買いに行きたいほど夢中の作家はもういない。ランドセルをがちゃつかせていた頃は、仲良しグループ内で一ページずつ漫画を描きっこして交換日記代わりにしていたくらい大好きだったのだけれど。

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カテゴリー

プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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