(……あの人にとっては、俺のこれが、あのテンコ盛りのパンだったのかな?)
だとしたら、未遂とはいえ、手ひどい感想を返したものだ。己の仕出かした仕打ちに居心地が悪くなり、片手に鍋・口にスプーンを銜えたまま、空いた手でジーンズのポケットを探る。取り出した携帯電話のはしっこは、メールの着信を告げる色に点滅していた。
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ずらっと前ならえした新規着信を、順に消化していく。どうやら彼女は、友人と昼前に出かけたらしく、メールのほとんどはその散発的な実況中継だった。駅前で落ち合うことになった、無事に落ち合った、高ランと落ち合った、高ランは女だ高藤(たかとう)が苗字だと、やはり一枚一枚のメールはペライが、友人と外遊びに出れたものだから浮き足立っているのだろう。ふと、やはりドアの隙間から、部屋越しに窓の外を見る。言い回しとして適切な時期から外れかけているが、いわゆる小春日和だった。
と。携帯電話が、またしても新着メールを知らせてくる。
「うん?」
それを見て、麻祈は目を見開いた。実況中継ではない―――題字からして、こちらの様子を窺うものになっていた。きちんと中にまで読んでみると、やはり依頼を主とした内容である。どうやら友人が急用で席を外してしまうので、時間に余裕があるなら買い物に助言者として付き合ってくれないかというものらしい。
(あー。そっか。今のうちに、世話になった大学教授にプレゼントでも贈るのか)
確かに、内容や時期の重複を少しでもなくそうと、卒業式でないシーズンに贈り物をした同級生がいた。彼女も、そのクチなのだろう。妙に幼くたどたどしい文体なので読むのに時間はかかったが、読んでしまえば納得できた。
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