. 淹れた茶を飲んだのを味噌汁への締めとして、流しに茶碗をまとめ、パジャマから普段着に着替えた。歯磨きし、洗面台で顔を洗う。
そして、後片付けだ。家族分の朝食やら間食やらの遺物である食器類に、あわ立てたスポンジをこすり付ける。熱湯でゆすいで、皿立てに積み木した。
濡れ布巾で食卓を拭き終わったら、次は炊事である。台所の端にある冷蔵庫の中身と、机上にある鍋―――の中のじゃがいも―――を踏まえて、メニューを考えた。
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(うー。加工済みタケノコの袋入りのが冷蔵庫にあったはずだから、筑前煮くらいなら、買出しに行かなくても出来るかなぁ。お肉なんか、ウインナーさえ無いんだけど。お父さんのチーちくからチーズ抜いて横流ししたら怒られるかなぁ。だったらいっそ、カレーにでもしようかなぁ。お肉無いけど)
結局、カレーポテトサラダにした。蒸かしたじゃがいもに砕いたカレールゥを混ぜ込んで、あとは普通にポテトサラダを作る手順で味を調えていくという、風変わりな一品である。職場で教わったのだが、やってみるとかなり美味だった。おかずにも、父の酒の肴にもなりそうだ。
だったらチクワくらいいいかなと、結局、筑前煮モドキも作った。モドキというくらいだからチーズを抜かないまま使った。案の定でろんでろんの煮汁になったのだが、味見してひと手間加えるだけで見た目を出し抜く旨さが出たので、気分良く鍋の蓋を閉めた。
三角コーナーの掃除まで終えてから、食器箪笥の天辺にある置き時計を見る。昼下がりだった。やったことのない料理に試行錯誤した割には、短時間で済んだ。まだ風呂を沸かすには早過ぎるし、だったらこれからなにをしようかと考えて、それはするべきことをしたあとに考えるべきだと思い出す。
紫乃は、自分の部屋に戻った。使いっぱなしだった化粧品やアクセサリーを、小棚やらポーチやら各々の住処に帰宅させる。窓を全開にした。早春の吐息と言うよりか、初春の最後の悪足掻きのような寒風が室内を掻き混ぜてくるが、掃除機を掛けるのだから換気はしておきたい。どことなく内股になりながら、猫背を奮わせつつ、プラスチックのヘッドノズルをカーペットにこすり付ける。
ひとしきりそれが済んで、二階廊下の突き当たりにある物置に掃除機を片付けた紫乃は、自分の部屋の前でストップした。
(掃除機の排気が残ってたら嫌だから、しばらく窓を開けたままにしておきたいけど。どうやって時間を潰そうかなぁ)
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