. 物臭(ものぐさ)を自認する自分がどうしてこんなことを続けているかというと、これとてやむにやまれずに他ならない―――合コンと違って実りがある分、気分が乗れば本腰を入れることとて可能だという意味では開きがあるとしても―――要は、販売されている惣菜も利用しはするのだが、とかく嫌な意味で日本的すぎて飽きがくるのが早いのである。小枝になるまで揚げられた唐揚げは食中毒を危惧してのもので、しばらく旨味の味蕾が麻痺するほど濃厚な味付けは薄味へのクレーム対策かなにかなのだろうが、石橋を叩きすぎて壊した瓦礫を咀嚼し続けるのは黙然とした拷問だ。かといってレトルトパウチを開けると、今度はピンからキリまで同じ味である。連綿とした処刑だ。となると自然に、自分で自分好みのものを作っておいて、既製品にノックアウトされたらそちらで味覚を慰める生活サイクルにならざるを得なかった。特に自分のべろが美感に鋭いとか偏執狂的だとは思ってはいないが、前に佐藤にハンドメイド雑炊を食わせてやったら感涙せんばかりの様子だったし、思い返してみると、コーヒーだってインスタントのものはありはすれど豆のドリップ袋だって切らしたことが無く、後者を淹れる時は水道水を使わない。やはり美味家(エピキュリアン(An epicurean))―――講釈贔屓の食通(ガストロノミアン(A gastronomiean))でなく―――なのかもしれない。だとしたら、歩いていける場所に乃介蔵(ののくら)が存在したのは、これ以上ない幸運だ。
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(……そういや今月まだ、顔出してないな。いつ行こう?)
いつもの順で、台所・洗面台・サンルーム・自室・便所・玄関と、使い捨ての柄つき紙雑巾で拭いて掃除していくうち、ふと行きつけの店を思い出す。昨日が昨日だっただけに、料理のみならず雰囲気と酒精を心ゆくまで堪能できる保障が万端の呑み処は魅力的だし、単純に店長の顔―――て言うか今月の髭の整え方―――を見たかった。予算の方は問題ない。だとしたら、今夜でも構わなくはないか?
そこで、再三の携帯着信音に、その発案を潰される。駄目だ。あの携帯電話を持ち込むのは、それこそ猥雑なのが目玉のお手軽店でなければ。
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