. 手と顔を洗って、普段着に着替える。部屋着と使用済みタオルを持って洗濯機の蓋を開けると、かなりの洗濯物がたまっていた。洗濯できなかった日数を指折りしてみて、今更その量を実感する。
(今日は自炊日だし。さっさとやっちまお)
液体洗剤をドラムの中にあけて、スイッチを入れた。標準設定から念入り設定へと変更し、スタートボタンを押す。あとは全自動だ。
麻祈は、部屋に戻った。冷蔵庫から食パンの最後の一枚を取り出すついでに、その他の内容物をざっと視線で掃く。
合コン前に買出しは済ませている。なにを作る予定だったのかは、冷蔵庫に貼ったメモで復習した。では、どういった順序で段階を踏んでいくのが最も効率的か、過去の立案が誤答でないか、もう一度おさらいしてみる。食パンを食べ切る前に済んだ。慣れたことだ。
触れた口周りに無精髭と異なる違和感を感じて指先を見れば、パン屑がついていた。ちゅっとそこへ唇を落としてから、冷凍食品のエビフライ―――そう、パン粉で思い出した―――の期限が迫っていたことを思い出す。頭の中のメニューのひとつである親子丼をエビフライ丼へと変更し、あまった鶏ササミはホールトマト煮込みへ転身させた……野菜はともかくベーコンもオリーブオイルも切らしているが、つまみ用のチーズを二回に分けて違う種類投入すれば、それらを使うのとはまた一風変わったコクが出てくれるだろう。一品増えたところで、タッパの数も足りるはずだ。冷凍庫の容積としてはぎりぎりかもしれないが。
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空になった食パンのビニール包装を片手に丸めかけて、麻祈はそれをやめた。生ゴミをまとめるのに使える。
自炊日とは、大体二週間に一回、こうして様々な惣菜を一挙に作って冷凍しておく、麻祈の習慣だった。異国にて父とふたりで住んでいた頃は毎日こなしていた自炊だが、日本の医大への入学を契機にひとり暮らしをし出してから、どう見積もっても毎食を手塩に掛けて用意するのは自分向きでないことが判明したので、そのように行動を切り替えたのだ……まあ日本の大学はサボろうと思えばどこまでもサボれたから、二週間に一度といわず、同級生が教科書の陰でプリンを食べていくのを背後の座席から眺めているより有意義だろうと、ハンバーグのタネを寝かせに家に戻ったりしたこともありはしたものの、今の病院に就職してからは休日の午前から昼過ぎにかけてやってしまうのが通例となった。
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