. 柄から紙雑巾を外して捨て、手をはたいてからメールを確認する。目を離した隙に八通到着していた。いちいち返信するのも無駄に思えたので溜めてから返そうと思っていたのだが、八通読んでもなにを返せばいいのか理解に苦しむ密度の内容が続いている。ありとあらゆるデコレートをされた“焦げ目カワユし”のひと言に、プリンと半溶けアイスの乗ったトーストの写真を添付されていたところで、朝っぱらから辛党を悪夢へ送り返す食卓ですねとしか言えない。としても、このメールにその返信は相応しく無いことも分かりきっている。
結局、自分も朝食はパン食で済ませたとだけ返した。洗濯機の洗濯完了のアラームが聞こえる。
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仕上がった洗濯物を、洗濯籠―――という名の、ビニール袋を張った持ち手穴あき段ボール箱―――に詰めて、麻祈は部屋から繋がるサンルームに干していった。陽光が差していたので、そこの窓も開けた。肌寒さが心地よい、冬の終わりの風が吹いている。
のだが、ふと己の髪に残る煙草の斂味(えぐみ)に鼻粘膜を刺され、麻祈はほぞを噛んだ。
(忘れてた。全部片付けてから、風呂だ風呂)
気合を入れようと、シャツの長袖をぐっと腕まくりして―――
息を呑む。
とっさに見下ろす。見回す。
左袖をそうしたはずみで、反対の袖までもまくり過ぎていた。自分以外、ここには誰もいない。それを知っているが、それでも知らん顔をして、肘まで、右の袖口を下げる。そして、ほこりを払うつもりで、右腕をはたいた……先端から付け根まで満遍なく、表も、裏までも。そこに感じるのは、今この瞬間の軽い痛打の感触だ。ほら見てみろ、錯覚は錯覚だろう?
(めんどうくさい)
げんなりと、麻祈はまばたきした。
が、発破には物足りず、両手でパンと自らの頬をはる。
「おっしゃやっちゃる(Let’s get stuck in!)―――百発百中、ブチかませ(Zeroes in on, Shoot 'em!)!」
威勢のいい英語で厨房と食材への宣戦布告を済ませ、麻祈は冷蔵庫へ手を掛けた。
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