「よくやりました……わたし」
ずらっと隊列を揃え、上はミニキッチンに備え付けの食器棚、下はミニキッチン真横の洗濯機の蓋まで占領したタッパ軍十二機体の駐屯風景は、毎度ながらなかなかに壮観である。火を入れた食材に缶詰を混ぜたズボラ和えから圧力鍋まで持ち出して丹精込めた牛すじ煮込みまで、各々の錬度に差はあれど、すべて懇切丁寧に味と具を調整できた自信がある。腰に手を当てて痛みをほぐしながら―――まったく、踏み台を使えばいくらでも身長など足せるのだから、男女平等を謳うJPNなら水周りの高さは最初から男性用設計で然るべきだろうに!―――、麻祈は鷹揚に頷いた。鈍痛は許せる。疲労すら愛せる。
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ふと、料理中は忘れていた空腹を思い出す。捨てられた雨ざらしの仔犬のような哀憐を鳴き上げるはらわたを、へその上からよしよしと片手であやしつつ、麻祈はドアの隙間から部屋の中を覗き込んだ。ベッド際のサイドボードにある腕時計は、とうに昼下がりに差し掛かった時刻を指している。
麻祈は、冷凍庫にストックしてあったおにぎりを取り出した。レンジで温め、牛すじ煮込みの残り汁でおじやにする。思いついて、残っていた高野豆腐も砕いて入れてみた。味見すると、これがまた汁を吸ってなお旨い。もともと牛すじ煮込みには豆腐を入れるものだが、正直ここまでとは思っていなかった。
(本物の豆腐は凍らせたらオジャンだけど、高野豆腐はどうなんだろ? 今度試してみるか。豆腐代わりにきのこと人参もイケるけどさぁ)
鍋にスプーンを突っ込んで直接食べながら、麻祈はうきうきと頭のスケジュール帳へと予定を記載した。
そして、今朝送信されてきたメールの写真を思い出す。
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