(友達と……ってことは、サークル仲間の男と組んで、サークル代表で買いに出たのか? ってことはヘタな手打ったら、もれなく全部この人が悪いってことになるのかよ。それは困るよなぁ。溺れてるんだから、こんな藁にも縋りたくなるよなぁ)
医大時代の記憶が、頭をよぎる。
麻祈は、銜えたままのスプーンをぴこぴこさせた。そうさせたところで、物思いは散ってくれなかった。スプーンの梃子の動きと物思いになんの因果関係も無いことが証明された。
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再び、窓の外を、ドアの隙間から垣間見る。認めざるを得ない。魅力的な陽光だった。
(あーもう。めんどくせえ。決めろ)
意を決す。
麻祈は、一時間後でよければと返信をして、とりあえず手元の鍋を制圧しにかかった。あと数十分で食器を片付け、タッパを冷蔵庫に移し、歯を磨いて、髭を剃り、余裕があるならもう一度だけ頭髪を蒸しタオルで拭いてみて、換気扇をつけっぱなしのまま―――なぜなら台所に臭味が残ると害虫が偵察に現れるからだ―――出掛けなければならない。そして、窓を閉めるのも忘れてはならない。ここは日本だが、そもそも人類史開闢(かいびゃく)以来、空き巣(A sneak)と娼婦(A floozie)が根絶された日は存在しない。
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