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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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. ひとり、電気を消した部屋のベッドの上。紫乃は、机の上の紙袋へと視線を触れさせた。その一方で、片手にて携帯電話の画面に電話帳を展開させる―――五十音順の冒頭、そこに彼がいた。麻祈が。

 見なかった振りをして電話帳をサ行に移し、佐藤葦呼に発信した。あっさり繋がった。これでもう、葦呼に話すしかなくなってしまった。ほらね、神様だって分かってるのだ……こんな自分のことなんか。

 暗闇の中で、紫乃は声を出した。

.

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. 見つけ出した焼酎のコーナーで、自分の身長の倍はあろう商品棚を見上げる。

(地震になろうものなら、圧死か溺死か、急性アル中で死んじゃうね)

 他人事のように思いながら、視線を横滑りさせていく。どうやら下にある一升瓶や紙パックはリーズナブルな品で、上段へ移るほど限定品となっているようだ。価格もそうだが、瓶の凝り具合からして、一見して違う。フラスコじみた形状をしていたものから、どしんとした瀬戸物造りをしたものまで。色合いも様々だ。紫色、乳白色―――

 そして紫乃は、それに見とれた。

(きれい……)

 青天の色の硝子瓶だった。

.

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「ありがと。参考にするね。お母さん」

 言って、紫乃は席を立った。鞄を手に、外へ出る。

 春に向けて着実に日暮れまでの猶予が拡大されてきているとはいえ、空はさすがに落暉の紅絹(もみ)色に差し掛かっていた。黄味がかった緋色の夕日が刻一刻と失われていく己の車の運転席にて車内ライトをつけ、手帳から目的のレシートを取り出す。

 記されている店名を、携帯電話を使って検索すると、市内の酒屋であることが分かった。氷以外の商品名を調べてみると、みっつが焼酎で、ひとつがウイスキーで、最後のものがハイボールとかいう缶飲料らしい。これに占めている比率からすると、焼酎を贈答品にするのが無難そうだ。

 紫乃は、車を出した。携帯電話に表示させた地図の通り、店までの道順を辿る。

.

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(なやむってなんだっけ?)

 それを考える。

 分かっていることは考えない。分からないから考えるのだ。今の自分が分からないこととは、なんだろうか? 一番最近、どうしてと感じたことはなんだったろう? どうして―――?

 そのひと言を、とうとう向けることが叶わなかった、彼のことを思い出した。

「あさき、さん」

.

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. 日曜日。現実味が無いのに、現実は続く。

 日が昇ると眼が覚めた。風邪を引いたように生活していたら、日が落ちたので、寝た。

 月曜日。火曜日。水曜日。いつも通りに出社する。現実味が無いから、現実を続けることができた。働いて、働き終えて、帰宅した。

 そして木曜日の夕方。昨日と同じように帰ると、昨日と違ってまだ姉も父もいなかった。暇を持て余していた母に言われるがまま、いつもの食卓の自分用の椅子に座らされて、体温計を脇に挟む。アラームがしたので取り出し、母に返した。

.

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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