. ひとり、電気を消した部屋のベッドの上。紫乃は、机の上の紙袋へと視線を触れさせた。その一方で、片手にて携帯電話の画面に電話帳を展開させる―――五十音順の冒頭、そこに彼がいた。麻祈が。
見なかった振りをして電話帳をサ行に移し、佐藤葦呼に発信した。あっさり繋がった。これでもう、葦呼に話すしかなくなってしまった。ほらね、神様だって分かってるのだ……こんな自分のことなんか。
暗闇の中で、紫乃は声を出した。
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「―――もしもし。紫乃だけど」
「うん。画面見たから知ってる。どしたの?」
「今どこ? なにしてた?」
「自前の寝床で寝るとこ」
「そっか」
「そだけど。なんか不思議? どれか、どうかした?」
紫乃。葦呼。寝床。寝るところ。そのどれかが、どうかした、―――のだろうか? それこそ分からなかったので、はいもいいえも伝えることが出来ず、紫乃は答えを先延ばしにするしかなかった。
「今度、お茶しない?」
葦呼は、電話口の向こうで頷いた。
「いいよ。今週の日曜日なら、昼過ぎからオーケイ。紫乃は?」
「大丈夫」
「お茶っていうか、お昼一緒しない? あたしが車出してもいい? ちょっと行ってみたい店あんの」
「うん。なら、そこでごはんね」
「じゃー、日曜日の十三時くらいに、紫乃ン家の前行くね」
「よろしく」
用は済んだので、電話を切った。時計を見たら寝る時間だったので、眠った。
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