「いつもの紫乃だったら、品物もそうだけど、言葉でもちゃんとありがとうってお礼したいって動く場面だと思ったんだけどな。てことは今、いつもの紫乃じゃないんだね。てーか、見たとこ袋の中お礼状っぽいもんも入ってないから、これ買う前から、いつもの紫乃じゃなかったんだね。ああ、だから木曜日の電話も用件だけで、最近の調子どうとかいったいつもの四方山(よもやま)話が抜きだったのか。どうなの? あたし間違ってる? 紫乃」
いつもの紫乃。
それは評価。自分への評価。
上野からもされた。母にもされた。姉にもされた。上野からは去った。母はやりすごした。姉はあしらった。葦呼からのそれは、どうしようか?
―――どうなの? あたし間違ってる? 紫乃―――
「間違ってるよ」
紫乃は答えた。なにをどうだと言われても、なにも感じない。感じないから、変わりない。変わらない。こんな自分だ。いつだって。
そのまま正直に、首を否定の仕草に振る。
「ほら。いつだって、いつも通りで。わたし別に、なんでもないもの」
.
「ふぅん。そんなら、そんでいーや」
その話は、それでお開きになった。話題が、デザートをどうするかに流れる。紫乃は、自分も食べ終わっていたことに気がついた。結局、甘味は控えることになった。
それから文化会館の特設企画展―――やるじゃん縄文人! ~土着ライフをナメんなよ~ ―――を巡ってから、建物の庭を散策した。葦呼が大きめの石を引っ繰り返しては裏側に住んでいる虫を見たがったり、剥がれかけた木の幹の皮の隙間を覗き込んだりしたがったので、それを見守ったり止めたりしているうちに、ほどほどの時間となった。坂田家へ向かう途中、葦呼がデザートにと果物の籠盛りを買うため青果店まで回り道したので、ちょうどいい時間となった。
夕食は賑わった。ここ最近は紫乃のせいでどことなく皆塞ぎ込みがちだったから、ちょっとでも恩返し出来た気がした。
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